オーストラリア最大の内輪ネタ「ドロップベア」

英文記事執筆:Sean Furniss / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
ドロップベアとは?
ドロップベア(学名:Thylarctos plummetus)は、オーストラリアで最も長く語り継がれている文化的な作り話の一つです。一般には、どう猛な肉食性の、コアラの近縁種だと説明されています。おとなしく草食性のコアラとは異なり、ドロップベアはユーカリの木の枝葉に潜み、何も知らずにその下を歩く観光客に飛びかかる機会をうかがっているとされる、架空の待ち伏せ型の捕食動物です。
その姿については、大型犬やヒョウほどの大きさで、体重は最大120キログラムにもなり、木に登るためのたくましい前脚と、肉を食べるのに適した鋭い歯を持つといわれています。主な攻撃方法は、最大8メートルの高さから落下して犠牲者の頭や肩にぶつかり、その衝撃で相手を動けなくしてから、首にかみつき、顔を爪で引っかくというものです。
伝説の起源
では、ドロップベアが実在しないのなら、なぜオーストラリア人なら誰もが知っている冗談にまでなったのでしょうか。伝説の正確な起源については諸説ありますが、多くの説では、第二次世界大戦中、だまされやすいアメリカ軍人をからかうために作られた話だとされています。別の説では、1970年代にコメディアンのポール・ホーガンが披露した「殺人コアラ」が登場する有名なコントが、この伝説の人気を広げるきっかけになったといわれています。現在では、オーストラリア博物館がウェブサイトに科学的な記述を装った記事を掲載し、『Australian Geographic』誌がドロップベアは外国訛りで話す観光客を狙うという風刺的な研究を発表するなど、主要な機関までもがこの作り話を熱心に守り続けています。
この冗談でだまされやすい観光客をからかう際、オーストラリア人はさまざまなばかげた民間の対処法を教えます。よく知られている生存対策には、髪にフォークを差しておくことや、脇の下や耳の後ろにベジマイトを塗ることなどがあります。ドロップベアは現地の訛りと外国訛りを聞き分けられるという研究まで引き合いに出し、獲物だと見破られないようにオーストラリア訛りで話すよう観光客に勧める人もいます。
「集団的なパフォーマンス」
オーストラリア人コメディアンのジム・ジェフリーズは、ドロップベアを、国全体で合意している唯一の「いたずら」だと表現しています。この自然発生的な集団パフォーマンスは、この冗談を成り立たせる重要な要素です。オーストラリア人は、事前の打ち合わせも準備もないまま、同じ国の人がついた嘘に加勢することがよくあります。
ジェフリーズは、イギリス人の妻が森の中でだまされたときのエピソードを、スタンドアップコメディの中で紹介しています。森で撮影をしていた際、ジェフリーズは妻が理由を尋ねるのを待ちながら、注意深く木の上を見回すしぐさをさりげなく見せました。そして妻に、「ドロップベアと呼ばれる動物」がいるのだと話しました。会ったばかりのカメラマンもすぐにその芝居に加わり、「いとこがドロップベアに殺された」と語りました。その後、メイク担当者も妻に、自分はこれまでドロップベアを数匹しか見たことがないと話しました。このように、全員で協力して物語を語ることで、部外者にははるかに本当らしく感じられます。
やがて、この冗談の真相を教えてもらうという最高のご褒美を得られた人には、今度はその伝説をほかの人へ伝え、国民的な秘密を守り続けることが期待されます。
結局のところ、ドロップベアは、部外者をオーストラリア独特のドライなユーモアの輪へと迎え入れる通過儀礼としての役割を果たしています。この伝説を一緒に楽しむことで、オーストラリア人は訪れた人々を独特な形でもてなし、気難しく考えすぎないという、この国の暗黙のルールについていけるかどうかを確かめているのです。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「でっち上げ」「いたずら」「偽情報」
「hoax」は、人をだます目的で作られたうそや偽情報を指す名詞です。SNSやニュースでは、偽の写真や作り話、陰謀論などが「hoax」と呼ばれることが多く、単なる間違いではなく、意図的な偽装を含む点が特徴です。
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