Crossroads(交差点)

英文記事執筆:SAKURACO / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
The Grammar of Life:
アメリカ在住のライターSAKURACOが、日々の暮らしや子育て、人々とのコミュニケーションの中で出会った「言葉」について想いを巡らせる隔週連載。人生をいろどり、かたどる言葉たち(The Grammar of Life)を、一緒に味わってみませんか。
記事内の「この記事を英語学習に使う」をタップすると、「レシピー」アプリで英語版を読むことができます。
アメリカで暮らし始めて12年目、ついにその日はやってきました。
誰かに中指を立てられたのです。
“To flip someone off”とは、誰かに中指を立てること。怒りを示す、非常に分かりやすく、かなり下品なジェスチャーです。あまりにも広く意味が通じるため、絵文字の仲間入りまでしています。(🖕) もちろん、映画では数え切れないほど見てきました。でも、実際に自分がそれを向けられたらどんな気持ちになるのかなんて、考えたこともありませんでした。
実際にされてみると、あまりいい気分ではありません。
その日、私は一人でちょっとしたドライブ旅行に出かけていました。私にとっては、それだけでもかなり大きなことでした。私は10年近く、深刻な運転への不安と闘ってきました。そして運転することは、いつの間にか、移民としての私の人生でまだ達成できていない節目のひとつになっていました。
運転できることは、単にA地点からB地点へ移動できるという以上の意味を持っていました。それは自立や自由、そしてもしかすると、この国でようやく自分の足で立つ方法を身につけつつある、という感覚の象徴でもあったのです。
そしてその日は、まさにその感覚を味わっていました。
どこまでも続く道を満喫し、少し大きな気分になっていました。
自信に満ちていました。
まるで、この道は自分のものだとでもいうように。
ところが、交差点に差しかかり、私はミスをしました。
優先権が相手の車にあるのに、曲がろうとしてしまったのです。相手の運転手は、聞き取れない何かを怒鳴り、私の横を通り過ぎながら中指を立てました。
運転することが、この国における自分の居場所を象徴するものになっていたからかもしれません。そのジェスチャーが突然、実際以上にずっと大きな意味を持って感じられました。
その男性は年配の白人でした。
そこは田舎の地域でした。
ほんの数秒で、怯えた私の脳は、足りない情報をすべて勝手に埋めてしまいました。
「この人は、私みたいな人間が嫌いなんだ。私はここでは歓迎されていない」
一瞬、私は一人の怒った運転手から中指を立てられたのではないように感じました。
アメリカそのものから中指を立てられ、拒絶され、さらには罰を受けているように感じたのです。
でも、しばらく道を走っているうちに、私は少しずつブレーキを踏み始めました。
今度は本当に車のブレーキを踏んだわけではありません。
自分の頭の中で展開していた物語に、ブレーキをかけたのです。
もし私が彼の立場だったら、どう反応しただろう。
もし、愛する人、自分が守る責任があると感じている人を乗せて運転しているときに、見知らぬ車が突然、目の前で危険な動きをしたら?
そのとき、ふと気づきました。
私が純粋な攻撃性だと受け取っていたものは、実は別のところから始まっていたのかもしれない。
恐怖から。
怒りとは、そういう不思議なところがあります。
攻撃に見えるものが、実はその下にある何かを守ろう、防ごうとする行為であることがあります。
恐怖、傷つき、悲しみ、弱さ。
そう考えてみると、あの道で怒っていた男性に対して、思いがけないほどやさしい気持ちが湧いてきました。
怖かったのだろう。
だから、反射的にああいう反応をしたのだろう。
そして不思議なことに、彼に思いやりを持てたことで、身構えることなく、自分自身にも同じあたたかさを向ける余地が生まれました。
彼の怒りを理解しても、だからといって私がそれを受けるに値したと考える必要はありません。
彼の恐怖を認めても、自分が傷ついたことまでなかったことにする必要はありません。
私はミスをした。
彼は怖かった。
私も怖かった。
彼の攻撃的な態度に、私は傷ついた。
そのすべてが、同時に真実であり得るのです。
英語にはもうひとつ、“to flip the script”という表現があります。
物事についてのいつもの考え方や、いつもの反応の仕方を変える、という意味です。
もしかすると、あの日、私がしたのはそれだったのかもしれません。
誰かが私に中指を立てた。
そして、自分の恐怖にひとしきり語らせたあと、私は物語の見方をひっくり返しました。
自分自身に語っていた物語にしばらくブレーキをかけて、「ほかにも真実かもしれないことはないだろうか」と考えてみたのです。
次にまた自分が交差点に立つことがあったら、このことを思い出したいと思います。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「状況を一変させる」「これまでの流れを逆転させる」「これまでの見方を覆す」
「script」はもともと映画や演劇の「台本」を意味し、「flip the script」は、それまでの筋書きをひっくり返すように状況や考え方を大きく変えることを表します。特に、従来のやり方や予想されていた展開を覆して、まったく違う方向へ転換するというニュアンスがあります。また、物事を別の視点から捉え直し、従来とは反対の発想に切り替えるような場面でも使われます。
What if we flip the script and see failure as a chance to learn?
「考え方を変えて、失敗を学ぶチャンスとして捉えてみたらどうだろう?」
※このエッセイはSAKURACOさんが英語で執筆したものを、編集部で和訳しました。




