Do You Want to Come In?(入ってみませんか?)

英文記事執筆:SAKURACO / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
The Grammar of Life:
アメリカ在住のライターSAKURACOが、日々の暮らしや子育て、人々とのコミュニケーションの中で出会った「言葉」について想いを巡らせる隔週連載。人生をいろどり、かたどる言葉たち(The Grammar of Life)を、一緒に味わってみませんか。
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私たちは、よく訪れる公園の近くにある、いつもの道を歩いていました。そこは何度も何度も歩いた道で、舗装のひび割れやアスファルトのわずかなでこぼこまで、足が覚えているほどでした。それなのに、その日は、見慣れた歩道がまるで別の世界へ通じる入り口のように姿を変えたのです。
空気の中にかすかな振動があることに最初に気づいたのは、娘でした。純粋な好奇心で胸をいっぱいにし、きらきらした目で私を見上げて、こう尋ねました。
「この音、なに?」
最初は、誰かがラジオで音楽を流しているだけだと思いました。でも、音のするほうへ近づいていくうちに、それが生演奏だと気づきました。本物の人たちが、その場で歌っているのです。そして、その音は教会から聞こえてきていました。
大きなフレンチドアは大きく開け放たれていましたが、中の様子はよく見えませんでした。プラネタリウムのように暗く見えました。明るい7月の日差しの中、その教会はどこか秘密めいていて、同時に神聖にも見えました。好奇心だけで近づいてはいけない場所のように感じられたのです。
そこで私は、娘の小さな手をそっと引き、その重い木の扉へと続く階段から離れさせようとしました。でも、歌は絶えず外へ流れ出してきます。まるで、中に収まりきらないほどのエネルギーがあって、そのために扉を開け放っているかのようでした。音楽には、人間であることの悲しみと希望がいっぱいに詰まっているように聞こえました。力強さとやさしさ、重さと軽やかさ、その両方をたたえていました。
私はそのまま歩き続けようとしましたが、娘の足は地面にしっかりと根を張ったように動きませんでした。
そのとき、扉のそばに立っていた一人の女性が、私たちに気づきました。彼女は美しい形の頭にバナナ色のバンダナを巻き、頭に巻いた布と同じ柄の、長くゆったりとしたドレスを着ていました。彼女は自然な足取りでこちらへ歩いてきて、階段を下り、娘と私に声をかけてくれました。
娘は、また同じことを尋ねました。
「この音、なに?」
女性はやわらかく微笑み、少しアフリカ系のアクセントを感じさせる声で答えました。
「ゴスペル*よ。中で歌っているの」
娘は、母親ではない人からそう教えてもらったことがうれしかったようでした。まるで、別の大人から聞くことで、その事実がいっそう本当のものになったかのように。そして娘は、そのまま中をのぞき続けました。
鮮やかで、どこか魂のこもった色をまとったその女性は、私たちを見て尋ねました。
「入ってみませんか?」
娘は、迷いのない強い意志でうなずきました。
その母親である私は、汗をかき始めました。
邪魔をしたくなかったのです。そこは神聖な場所でした。私が共有していない、あるいは少なくとも、同じほどの深い信仰をもって理解してはいない信仰を、人々が実践している場所です。私は、「彼ら」のようにその信仰に身を置いていない限り、入るべき場所ではないと思いました。
私たちが「彼ら」のようでない限り。
だから私は女性にお礼を言い、もう行かなければならないけれど、また今度、と伝えました。
そのやり取りが、その後の数時間、これほどまでに後悔を残すことになるとは、そのときの私は知りませんでした。
あとになって、私は気づきました。彼らは私たちを歓迎してくれていたのです。
その腕は開かれていました。
その扉も開かれていました。
そして、「私たち」と「彼ら」を隔てる線を引いたのは、私自身でした。
でも、もし私たちがその線を引き続けるのなら、どうやって互いを理解できるのでしょう。人間であることの違いも、同時にそこにある普遍性も、本当の意味で知り、受け入れ、大切にすることができるのでしょうか。
どうやって、互いを愛することができるのでしょう。
—
私はまた、娘の小さな手を握り、決意を新たにして、同じ歩道を歩くつもりです。
今度もし誰かに、
「入ってみませんか?」
と尋ねられたら、私はこう答えます。
「はい、ぜひ。あなたの世界に入ってみたいです」
なんてシンプルな招待なのでしょう。
そして、なんて寛大で、無防備な招待なのでしょう。
これが私の世界です。
あなたにも、ぜひ入ってきてほしい。
いつか私にもその機会が訪れたら、あの女性が私たちにそうしてくれたのと同じように、自然に、そしてやさしく、私も誰かにその招待を差し出せたらと思います。
ゴスペル(gospel):英語で「福音(神の教え・良い知らせ)」を意味し、アメリカの黒人教会で発展したキリスト教プロテスタント系の宗教音楽(福音音楽)を指す。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「一線を引く」「限界を定める」「ここまでと線引きする」
「draw the line」は、何を許容し、何を許容しないのか、その境界や限度をはっきり決めることを表す表現です。「drawing that line」のように使うと、特定の問題について「その境界線を引くこと」「どこまでを認めるか決めること」という意味になります。
It can be difficult to know where to draw the line.
「どこで一線を引くべきか判断するのは難しいことがあります。」
※このエッセイはSAKURACOさんが英語で執筆したものを、編集部で和訳しました。




