平野と伊藤の「よけいな話」#1 AIとディナーショー(1/2)

イラスト:スミアヤカ

翻訳家・通訳者の平野暁人さんと、文筆家の伊藤亜和さん。
これまでPOLYGLOTS magazineの特別インタビューにもそれぞれご登場いただいたお二人は、実はプライベートでも仲良し。

平野暁人さんのインタビューはこちら!:https://mag.polyglots.net/1940/hirano-interview
伊藤亜和さんのインタビューはこちら!:https://mag.polyglots.net/3822/awa-ito-interview

翻訳やエッセイをはじめ、さまざまな形で「言葉」を生業とするお二人に、毎月ひとつのテーマを入り口に、自由に語り合っていただくのがこの連載「平野と伊藤のよけいな話」です。

この連載で大切にしたいのは、テーマについての「結論」や、わかりやすい「解説」ではなく、「よけい(余計)」なこと。

効率や合理性がますます求められる現代社会で、意味もなく誰かと話すことや、興味の赴くままに考えること、すぐには役に立たないことに時間を使うことは、少しずつ後回しにされがちです。

だからこそ、とりとめなく、ときに鋭く、ときにふわふわと続いていくお二人の会話から、なくても困らないけれど、あったらちょっと豊かになる、そんな「よけい」な言葉たちを、一緒に楽しんでいただけたらと思います。もしかしたら、その「よけい」にこそ、本質があるかもしれません。

本企画では「こんなテーマについて話してほしい」というリクエストや、各回の感想をお寄せいただけるフォームも設置しています。
お二人の間だけでなく、読者のみなさんとも少しずつ「よけいな話」を交わしていける連載になればと思っています。ぜひ気軽にご参加ください。
https://forms.gle/psN7wjmwyxXUc3yBA

第1回収録時の様子(右:平野暁人さん、左:伊藤亜和さん)

#1 AIとディナーショー

AIの現在地

編集部

「平野と伊藤のよけいな話」、スタートです。お二人は普段から仲良しで、飲みに行かれたりもするとのことなので、この連載でもそんなお二人の自然な空気感を読者の皆さんにお届けできたらと思っています。ですので、あえて細かな打ち合わせや準備などはせずに、自由に、思うままに「よけいな話」をしていただければと。まずはお菓子でもつまみながら・・・。

伊藤

シラフだと不安です。酒がないと不安。

平野

それもう本当に人として最後に言うやつ。

伊藤

お酒がないと人と喋れない。

平野

昭和のダメな作家じゃないんだからさ。

編集部

本日のテーマは「AI」です。2022年にChatGPTが登場して以降、何かについて調べることはもちろん、私たちの生活のいたるところにAIが入り込んでおり、もはや「AI以前/以降」という世界の捉え方もできてしまうと思います。

登場まもないころはその「未熟さ」に対して半ば笑いながらツッコミを入れたりもできたわけですが(「AIに作らせた文章がひどい」など)、その加速度的な進化により、今ではもはやできないことはないのではないか、人間の能力を超えてしまったのではないか?と思ってしまいそうになるほどです。

平野さんは2025年の元旦に「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」というテクストをnoteで発表されて、非常に話題になりましたが、そんな平野さんでもAIを使われることはあるのでしょうか?

もうすぐ消滅するという人間の翻訳について
著者:平野暁人
AIが翻訳を、言葉を、人間の要求をどう変えていくか?そしてそれは本当に「AIによって」変わるのか?グローバル資本主義、グローバル・コミュニケーションにおける「英語」という大きな力にも言及されます。英語学習者にもさまざまな気づきを与えてくれるテクストです。
平野

使います使います。
あれを発表して以降、なんかすごいAIが嫌いな人みたいになっちゃって。

伊藤

そうですね。AI警察みたいな。

平野

そう、「平野さんの敵の〜」みたいに言われるんだけど、そんなことはないっていうか。嫌いで使わなかったらどんなものなのかもわかんないしね。あと、AIもあくまで人間の作り出したシステムであって、独立した人格が備わっているわけじゃないからね、それをただ嫌って忌避しても別に何にもなんないから。使いますよ。いろいろ実験している。

伊藤

それは言語に関してですか?

平野

まあそうだな、調べ物はほら、まだまだ当てにならないでしょ。事実でもなんでもないことをバンバン言ってくるから。

伊藤

そうですね、ちょっと怖いです。大嘘つきが現れたりするので。

平野

昔に比べたら精度は上がってるけど、僕は調べ物よりは、スペルミスとか単純な文法チェック、前置詞とか冠詞の間違いとかのチェックに使います。最近日本語をフランス語に訳す仕事が多くなってるので。あくまでも自分で訳したうえで、それをチェックにかける、みたいな使い方。

伊藤

なるほど。私も自分が書いた文章を見てもらったりとかしてみたんですけど、「ああ、これは本当にすごいエッセイだ!」みたいなことしか言ってくれなくて。
全体の評価というか、チェックとしてはあんまり信用できないのかなっていうふうに思ってて。なのでやっぱり細かい漢字とか言い回しのミスとか見てもらうっていう風に使うのが今はいいかなと思っていますね。

平野

それは「自分(伊藤亜和)の書いたものです」っていうのを明らかにした上で読んでもらうの?

伊藤

いや、もうボンって本文だけ投げて。私もよく使い方わかってないから。それだとダメなんですかね。

AIにだけモラハラする人

平野

AIは「批評してください」とか指示をすると、絶対良くないところも無理やり見つけて言うんですよ。
ここはいいけど、ここはいまひとつとか、ここがちょっと重いとかわかりにくいとか、そういうことを言うために言う、コメントのためのコメントみたいなのを絶対に見つけてくる。そうやってフェアネスを演出しつつ、両論併記でリスクヘッジを図っている。

伊藤

言われたら言われたで「AIのくせに」って思うけど、どっかで「確かにな」って思って、それに近いことを採用しなければならないという切り替えが入る。
でもAIが思いついたことを利用するっていうのが、まだちょっとズルをしてるような気分になっちゃうんですよね。

平野

それはなるよね。でも実際問題AIが言ってきて「なるほど、それ面白い、採用」みたいなことないけどね。それは僕の方がすごいとかじゃなくて、AIはやっぱり標準化する機能だから。

例えば、詩を読ませたとして「ここは論理の飛躍があって、読者に負荷が高いです」とか言われるんだけど、「いいんだよ!そこは詩なんだから!!」って。

伊藤

そうそうそうそう。

平野

「飛躍じゃなくてそれは詩性だから。それ説明してどうすんだ!」みたいな指摘を平気でしてくるわけ。せっかく短歌や俳句の形で圧縮したものを散文にして書き直せって言ってるようなもんだから、それは。

だからつい、そのつもりはないんだけど、つい、気づくといつも詰めてる。

伊藤

すごい聞きます、周りで。普段優しい人がAIにだけモラハラしてるっていう話を。

平野

モラハラ。でも僕毎回リセットしてるからな。

伊藤

記憶を?

平野

うん。「お前に覚えられる筋合いはない」みたいな。
情報の蓄積によってこちらの人格を理解しているような口利かれたら本当に腹立つ。

伊藤

でも友達みたいに使う人いますよね。

平野

うんうん。いる。なんか名前とかつけてね。

編集部

音声もすごいじゃないですか。もう人のように。

伊藤

うんうん。ちょっと前だったら、「あ、これAIだな」ってわかったけど、最近の動画に特化してるAIとか、Seedance(C Dance)っていう、落語をラップみたいに歌わせたりとか喋らせたりとかするAIとか、もうわかんないじゃんと思って。

平野

うん。しかも今さ、フィラー(言い淀み)を入れてるんですよね。

「だからそれはまあ、うーん、でもあれか、」みたいな喋り方をする。「自然さ」っていうものの脱構築だよね。
自然が意味するもの。自然な機械、人間と同じように喋っちゃったら、もう機械として自然じゃないじゃんっていう矛盾。人に近づけることが喜びなのかと。

伊藤

うんうん。

平野

できたばっかりの頃は「あ、すごい人間みたいだ」とかってキャッキャッとしていろいろ喋らせるのはわかるんだけどさ、最終的には人っぽいかもしれないけど人じゃないからね。いいのかな?

みんな「答え」じゃなくて、その人の「サビ」を聞きに行く

平野

この前、ミキティ(藤本美貴さん)の人生相談の動画を見てたの。
で、この人何が面白いって、やっぱり自信に満ち満ちてるんですよ。「え、その男と一緒にいる意味ある?」「ごめん、さようならだよね」みたいなことを言うんだけど。

例えば、年齢差が二十歳ありますってカップルとか、あるいは同性愛者ですとか、そういう人からも相談が来て、それに対して「なるほどね、別にいいじゃん」とか「いや、親としたら最初はなかなか受け止められないよ?」「でも悪いことしてるわけじゃないんだからさ」みたいなことを適切に言っていくんですよ。

で、みんながなんで藤本さんに相談するかっていうと、やっぱりそのキャラが大事なわけじゃん。この人すごく健やかに育ってきたんだなとか、家族観がとても健全だなとか。

今までこういう過去があって、こういう活動をしてきて、こういう思想を持ってるんだな、っていう個人的な背景に期待して相談するわけじゃん。もちろんそれはそれで虚構かもしれないけど、誰でもいいわけじゃないと思うから。

伊藤

そうですね。私はジェーン・スーさんの相談(TBSラジオ「生活は踊る」の中のお悩み相談コーナー「相談は踊る」)も聞いてるんですけど、どう答えるか気になるっていうよりは、やっぱり「節」(ぶし)というものがあるじゃないですか、その人には。

「スーさんならこう言うだろうな」って予想するのが楽しくなっちゃってるみたいな。実際同じ人で、同じ考え方をいろんなところに書いてるから、このワードが「出るか出るか…」みたいな感じで、サビを聴きにいってるというか。ライブに近いかもって。

平野

なるほどサビをね。「自他の境界キター」みたいな。

伊藤

そうそう!自他の境界キターみたいな。

平野

AIに相談するというのは結局そういう、「こういう人だから相談したい」、あるいは「厳しかったけど、あの人が言うことだから受け止めてみよう」とか、そういう良くも悪くも属性に根差した、受け止め方とか発信の仕方っていうのがないからね。ないからこそ気楽なんだろうけど、あんまりやっているとどっかでやっぱり、「これは何の時間ですか?」ってなると思う。

まあ入り口としてはいいのかな。いろんな理由で自分が世界に一人ぼっちだと思っちゃってるような人が、誰でもいいから聞いてほしい、そして反応が欲しいっていう時に、AIは最初の一歩としてはいいかもしれないけどね。

伊藤

まあ怒んないですしね。

平野

感情がないからね。

伊藤

人の感情って、怖い。
どう反応されるかっていうことをすごい考えちゃって、そのせいで自分の相談の内容をちょっとずつ本心からずらしちゃったりとかするから、AIへの相談はそういうのをしなくてもいいということなんじゃないかな。

編集部

AIへの相談は結果的に自分にとって良くも悪くも「無害」で、気持ちいいところで止まってくれるというか。結局「叱られない」ということが大きいのでしょうか。

平野

叱るってことはないですよね。注意喚起することはあるけど。
特に健康に関すること、生活習慣とかお酒の量とかに関してはすぐなんか言ってくるわけ。

「筋トレだけでなく有酸素運動も必要です」「多くても少なくても安全な飲酒量というのはありません。」っていうふうに、「エビデンスベースで言ってます」みたいなこと言ってくるから、「チッ」って思って。

伊藤

イラっとしますね。

平野

「お前はいいだろうよ」って。飲まないし。

伊藤

悩みもないだろうし。

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