国外で称賛され、国内で非難されたパキスタン映画:『Joyland』

© 2022 Joyland LLC 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部

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この映画は何を描いているのか?

パキスタンのラホールが舞台の『Joyland』(日本公開時タイトル:『ジョイランド わたしの願い』)は、サーイム・サーディク監督による映画で、2022年(日本では2024年10月)に公開され、高く評価されました。カンヌ国際映画祭でワールドプレミアを行った初めてのパキスタン映画であり、「ある視点」部門の審査員賞と「クィア・パルム賞」を受賞しました。

映画は、ラホールの一軒の家で同居している保守的な低所得の家族を中心に描かれます。次男のハイダルと妻のムムターズは、父親、長男とその妻ヌチ、そしてその子どもたちと共に暮らしています。友人の紹介で、ハイダルはトランスジェンダー女性ビバのバックアップダンサーとして働き始めます。やがて彼は彼女の生活に魅了され、バックダンサーとしての新しい人生と、伝統的な夫や息子としての役割の間で葛藤します。映画はまた、家の中にいる2人の女性たちの物語も追い、パキスタンの女性たちの強さと勇気を浮き彫りにします。

ほとんどのパキスタン人は、この映画の登場人物の少なくとも1人には自分を重ねることができます。この映画で描かれる、国の中で語られてこなかった物語は、賞賛の念を呼び起こすと同時に、多くの人々が閉ざされたドアの向こうで直面している現実に対する悲しみも感じさせます。

検閲と論争

近年、パキスタンでは宗教的な政党からの反発を受けて、いくつかの映画が禁止されてきました。2020年には、敬虔なムスリムの男性が踊る映像が流出したことで生活が一変するという映画『Circus of Life』の公開が、極右の原理主義政党の報道官から「冒涜的だ」と非難され、繰り返し中止されました。

『Joyland』もまた、LGBTQ+の関係を美化し、「極めて攻撃的で、明らかに品位と道徳の基準に反する内容を含んでいる」との声を受け、パキスタン政府により公開が禁止されました。3つの検閲委員会が小規模なカットを行った後に映画を承認していたにもかかわらず、公開に反対する一部の声を納得させるには不十分でした。監督やキャストによる抗議、さらには製作総指揮のひとりであるマララ・ユスフザイらの支援もあり、最終的に3か月後に禁止は解除されました。その後、映画はパキスタン全土で公開・上映されましたが、作品の舞台であるパンジャーブ州だけは例外でした。

そして今年8月17日、公開から3年を経てようやくラホールでの上映が予定されましたが、上映直前に中止されました。これは、トランスジェンダーの人々が参加した別のパーティーの映像がオンラインで拡散したことを受け、数名の逮捕を伴う取り締まりの一環として行われたものでした。警察の報告によると、その映像には露骨な内容が含まれており、政府により事件として立件されました。

パキスタンにおけるトランスジェンダーの権利

パキスタンのトランスジェンダーの人々は、2018年の「2018 年トランスジェンダー(人権保護)法」の下で、一定の権利が与えられています。アムネスティ・インターナショナルのジェンダー担当リサーチ/政策アドバイザーであるナディア・ラフマンは、この法律を「世界でも最も進歩的なトランスジェンダー権利法制の一つ」と称賛しています。

しかし、その機会をトランスジェンダーの人々の権利のために運動することに用いる代わりに、かえって彼らに対する危険な中傷キャンペーンをさらに助長しています。

「2018 年トランスジェンダー(人権保護)法」は、トランスジェンダー個人の法的承認を与え、自己の性自認を認める権利、教育・雇用の権利、差別の禁止を規定しました。これはパキスタンのトランスジェンダー・コミュニティにとって画期的な瞬間であり、世界にとっても良い模範となるものでした。しかし、2023年に、パキスタン連邦シャリア裁判所は、性自認の権利を含むいくつかの条項を、「イスラームの原則と両立しない」として、無効にする決定を下しました。

多くの市民団体や人権団体、そしてトランスジェンダーの活動家たちが怒りと深い懸念を表明しています。トランスジェンダー女性たちは依然として暴力の被害に遭っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2024年にはカイバル・パクトゥンクワ州だけで少なくとも7人のトランスジェンダー女性が殺害されました。

さらに『Dawn News』によれば、拡散した映像に関連し、パキスタンの有名ファッションデザイナーのマリア・Bがトランスジェンダー・コミュニティに対する中傷キャンペーンを強め、彼らを「下品」や「不道徳」と呼んでおり、これが政府による「不道徳な活動」への取り締まりの誓約に影響を与えた可能性があると考える人もいます。トランスジェンダーの権利を求める闘いは終わる気配はなく、パキスタンの多くの活動家たちが現状について声を上げ続けています。


『ジョイランド わたしの願い』

DVD発売中(販売元:アルバトロス・フィルム)、Amazon Prime Video、U-NEXTほかで配信中

第95回 米アカデミー賞国際長編映画賞 パキスタン代表 ショートリスト選出作品

第75回 カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門審査員賞受賞 & クィア・パルム賞受賞

2023年 インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞受賞

監督・脚本:サーイム・サーディク/出演:アリ・ジュネージョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーンほか

製作総指揮:マララ・ユスフザイ、リズ・アーメッド『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』 ほか

英題:JOYLAND/2022年/パキスタン/パンジャーブ語、ウルドゥー語/1.33:1/ 5.1ch/127分/日本語字幕:藤井美佳

公式サイト https://www.joyland-jp.com

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emoji_objects本記事の重要フレーズ

smear campaign

中傷キャンペーン、名誉を傷つけるための組織的な攻撃

ポイント

“smear” は「汚す」「塗りつける」という意味から転じて、「(人の評判を)汚す」ことを指します。 したがって “smear campaign” は「個人や団体の信用を落とすために意図的・計画的に行われる中傷行為」や「誹謗中傷のキャンペーン」を意味します。

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