クリンジ・カルチャーの終焉
「本気はダサい」が、むしろダサい?

翻訳:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Fred Duval / Shutterstock

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「クリンジ・カルチャー」とは?

過去20年ほどの間に、特に若者の間でクリンジ・カルチャーが急激に増加してきました。同時にソーシャルメディアの台頭が、人々が互いの行動に対して行う評価や監視を強め、「気まずい」「変わっている」「独特だ」と見なされるものがいじめや嘲笑の対象になるようになりました。

「cringe(クリンジ)」という言葉は、気まずいものに対して「見ているこちらが恥ずかしくなる」感覚を表すもので、若者世代にとっての流行語になっています。クリンジ・カルチャーと並んで、「無関心であること」の流行もありました。クールで、距離を置き、無関心に振る舞うことが「カッコよさ」と見なされてきたのです。クリンジと無関心のカルチャーは一緒になって、自分の創造性や個性を抑えて周囲に合わせることを強制してきました。

学校における「クリンジ・カルチャー」の影響

こうした若者の態度は、教師たちにとって大きな懸念を生んでいます。ニューヨーク大学の教授オーシャン・ヴオンは、ABCとのインタビューで「クリンジ・カルチャーが若者を押さえつけている不穏な現実」について語りました。彼は「ますます多くの人々が、挑戦すること自体を気にするようになっている」と警告しました。

また、彼は、学生たちが「自分自身の夢に向かって必死に努力していると見られたくない」という思いから「監視社会」に屈している、と懸念を示しました。そして「教師として、それは恐ろしい報告だ」と述べました。学生たちが評価されることへの恐れに対応する方法は「シニシズム(冷笑)を演じること」であり、それはしばしば「知性」と誤解される、と説明しました。

ヴオンにとって本当の問題は「誠実さは私たちが強く求めるものなのに、いざそれがその場に現れると気まずさを感じてしまう」という点でした。彼は、演じられた無関心の背後に隠れるのではなく、誠実さや努力、正直さを自由に示せる環境を教室につくることが重要だと主張します。

トール・ポピー症候群

トール・ポピー症候群*とは、オーストラリアやニュージーランドに一般的に見られる態度で、うまくいったり目立ったりする人がしばしば批判されたり、引きずり下ろされたりする現象を指します。「必死すぎる」や「目立ちたがり」といったよくある侮辱の言葉は、成功をあからさまに追い求める人を軽んじるために使われます。野心を祝う代わりに、成功した人々は否定的な注目を避けるために謙虚にふるまい、自分の成功を隠さなければならないと感じることが多いのです。これは、野心や努力、目立つことを恥じるクリンジ・カルチャーと密接につながっています。

ティモシー・シャラメ:クリンジ・カルチャーの終わりを示す

ティモシー・シャラメは最近のスピーチで、野心や努力を拒絶するクリンジ・カルチャーに立ち向かう重要な瞬間を示しました。2025年の全米映画俳優組合賞(SAGアワード)で最優秀男優賞を受けた際のスピーチで、彼はこう述べました。「この役にかけた努力や、これが自分にとってどれほど大切かを控えめに語るのが、一番上品なことなのだろう」。しかし彼はその重要さに尻込みすることなく、こう宣言しました。「でも本当のところは、僕は偉大さを追い求めているんです……僕は偉大な人の一人になりたい」。

このスピーチへのオンラインの反応は圧倒的に肯定的でした。視聴者はこの瞬間を称賛し、努力を誇りに思う言葉を聞けたのが新鮮だと感じました。このスピーチは、多くの人々がクリンジ・カルチャーにうんざりし、シャラメのこの一件のような本物の瞬間を求めていることを広く議論させるきっかけとなりました。彼の言葉は「何も大したことはない」と振る舞う無関心カルチャーに真っ向から対抗しました。

今や人々はこうした無関心で演技的な態度が当たり前に拒絶され、逆に笑いものになりつつあるという変化を目の当たりにしています。その代わりに、本物らしさ、情熱、野心が再び大衆文化の中で尊重されるようになっています。

これは最近のソーシャルメディアの流行でも見られます。人々は「クリンジになるリスクを考えすぎて、自分の本当の姿を閉じ込めてきた」と気づいたのです。そこで今、多くの人々が自分の情熱や個性を解き放ち、「クリンジであることは自由であること」というスローガンを掲げているのです。


*トール・ポピー症候群(Tall Poppy Syndrome):成功したり目立ったりする人を批判したり引きずり下ろそうとする社会的な風潮。オーストラリアやニュージーランドでよく使われる表現で、「背の高いケシの花(tall poppy)」が他より目立つために切られてしまう、という比喩に由来する。

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emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ

secondhand embarrassment

「見ているこちらが恥ずかしくなること」「他人の行動を見て感じる気まずさ」

ポイント

「secondhand」は「間接的に」「他人を通して」という意味を持つため、secondhand embarrassment は「自分がしたことではないのに、他人の失敗や気まずい行動を見て恥ずかしくなる感情」を表します。 日本語でよく言う「こっちが恥ずかしい」「見てられない」などの感覚に近い表現です。

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