キニマンス塚本ニキの「Tokyo Pride 2026」レポート

6月は「プライド月間」(Pride Month)。世界各地でLGBTQ+の可視化と権利、多様性を祝うさまざまなイベントが開催されるなか、東京でもアジア最大級のプライドイベント「Tokyo Pride 2026」が開催されました。

2026年6月6日、7日に代々木公園を中心に開催された「Tokyo Pride 2026」では、2日間を通して企業や団体のブースが集うプライドフェスティバル、アーティストによるパフォーマンスが行われるプライドステージが行われ、7日には多くの参加者が渋谷・原宿エリアを歩くプライドパレードも実施されました。

今年の会場には、どんな人たちが、どんな思いを持って参加していたのでしょうか。
国内外から集まった参加者の声を聞くため、今回はTokyo Prideへの参加経験もある、通訳・ラジオパーソナリティのキニマンス塚本ニキさんに取材をお願いしました。
Tokyo Pride 2日目のフェスティバルとパレードをめぐり、参加者や出展者へのインタビューを通して、祝祭のにぎわいの奥にある声や願いを届けます。


原宿駅の改札から代々木公園に向かって歩いていると、レインボーカラーの服や小物を身に着けた人達の姿が視界に入って、それだけで気分がちょっとアガってきた。代々木公園の入り口には巨大なレインボーのアーチが設けられ、すでに大勢の人が集まっている。

今年のTokyo Prideにはどんな人たちがどんな思いで参加しているんだろう。

アーチ付近でパンク風の服装に犬のお面を付けた方にさっそく声をかけてみると、快く取材に応じてくれた。

お話を聞いたのはTokyo Prideのために今回はるばるサンフランシスコから来日した(!)Coreyさん。過去に東北地方に住んでいたことがあり、日本のクィアコミュニティとも以前から関わりがある。シスジェンダー*でもストレート*でもないことからクィア*を名乗っているトランス男性だ。自身がトランスかつクィアであることはオープンにしているが、通常は仲良くなった人にしかセクシュアリティやジェンダーに関する話はしない。その理由は子どもの頃のトラウマに根ざしているそうだ。

*シスジェンダー:生まれた時に割り当てられた性別が自認するジェンダーと一致する人
*ストレート:異性愛者
*クィア:本来は『風変わり』や『不思議な』という意味を持ち、過去には蔑称として使われていたこともあるが、現代ではあらゆる性的マイノリティ当事者の総称としてポジティブに知られている、queer

「自分が男の子であることは幼い頃から自覚していましたが、10歳の時に保守的なジョージア州に引っ越してからはジェンダー的に周りから浮いた存在だったので、とても苦労しました。」

幼少期から男の子として見られることが多かったが、そのたびに両親に「娘なんです」と訂正されることに違和感を覚えていたCoreyさんは、7歳の時に「今後もう女の子だと訂正するのはやめてほしい」と親に頼んだ。その後、約2年間インターネットで情報を調べまくり、中学生になってから性別移行の医療プロセスを始めるようになる。

17歳でサンフランシスコに引っ越し、男子生徒として現地の高校に通ったが、そこでもトランスであることは周囲に話せなかったと言う。

I tried to drop, like, every single hint possible, that I’m not a cisgender man. But I felt so much fear of being open in such a blatant way that I kind of kept that more to myself.

(和訳)
自分がシスジェンダー男性ではないということは、できる限りさりげなく、いろいろな方法で伝えようとしていました。でも、それをはっきり言葉にしてオープンにするのはすごく怖くて、結局そのことは、自分の中にとどめていたところがありました。

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drop

(口語で)発表する・使う・やめる・ほのめかす など

ポイント

「drop」は本来「落とす」という意味の動詞ですが、口語では意味が大きく広がっています。新しい作品を「発表する(drop an album)」、お金を「使う(drop $500)」、話題を「やめる(drop it)」、それとなく「ほのめかす(drop a hint)」など、日常会話ではさまざまな意味で使われます。

例文

・The artist just dropped a new album last week.
「そのアーティストは先週、新しいアルバムをリリースした。」
・I just dropped $500 on these sneakers.
「このスニーカーに500ドルも使っちゃった。」
・Will you drop it, already?
「もうその話はやめてくれない?」
・She kept dropping hints about what she wanted for Christmas.
「彼女はクリスマスに欲しいものを、それとなくほのめかし続けていた。」

偽りの自分を演じたくない。かといって、堂々と本当の自分をみんなに知ってもらいたいと思うほど安心できない。リベラルな街の代名詞ともいえるサンフランシスコにいてもなお、思春期のCoreyさんにとってセクシュアルマイノリティとしてカミングアウトすることは勇気のいることだった。

それほど、幼少期や成長期にかけて周囲の偏見や差別から負った傷が深かったということだろう。

その後、リベラルな校風で知られるサンタクルーズの大学に進学し、少しずつ自分らしさを出せるようになったと言う。それでも、今のアメリカの政治的な流れには危機感を感じているし、日常を生きながら不安はつきまとう。

「とても保守的な地域で育った時の経験から、自分についてオープンに話すことに対するトラウマがまだ残っているんです。かといって、本当の自分を隠して偽りたいわけでもない。トランス男性かと聞かれたらそうだよって答えるけど、「ただの男性」として接してもらいたいし、トランス男性として生きることについて語る前に、まずは僕という人間について知ってもらいたい場合もあります」

Intimacy is really important to build those kinds of trust, and having those terms be prescribed to me…I don’t know, it’s kind of complicated.

(和訳)
そういう信頼を築くためには、親密さが本当に大切です。でも、そうした言葉(トランスジェンダー、クィアというラベル)を自分に押し付けられることについては……なんというか、少し複雑です。

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be prescribed to someone

「(言葉・役割などが)人に与えられる」「人に当てはめられる」

ポイント

「prescribe」は本来「薬を処方する」という意味ですが、「be prescribed to someone」の形では、名前・役割・考え方などが外部から与えられることも表します。LGBTQ+の文脈では、自分で選んだものではなく、社会や他者によってラベルやアイデンティティが当てはめられることを表す場合があります。

例文

I rejected the labels that were prescribed to me by others.
「私は、他人から当てはめられたラベルを受け入れなかった。」

Coreyさんは現在、世界で最も有名なgayborhood、(『ゲイの街』)の一つ、カストロ地区のバーで働いている。サンフランシスコといえば、1969年の『ストーンウォール暴動』がセクシュアルマイノリティの権利運動を広げるきっかけとなる前からthe capital of gay Americaと言われた、レインボーフラッグ誕生の地でもある街だ。だから当然、サンフランシスコのプライドは東京の何倍も盛り上がるんでしょうね、…と訊いてみたら、Coreyさんは顔を少し曇らせた。

「仕事柄、プライド期間中は色々関わることになりますが、正直に言うと、最近サンフランシスコのプライドについて少し不安な、怖い気持ちがあります。最近、過激な右翼の保守派がサンフランシスコにやってきて変な動きを起こし始めていて。反リベラルの人々にとってサンフランシスコはあまりにも分かりやすい標的ですから。だから、今こうして東京にいる時の方が安全だと感じます。僕らにとって100%安全な場所なんてないと思うけど、それでも東京は他の国や街にはない安心感があるんです。」

I really, really love building, like, siblingship with the trans men out here. I think they’re doing things that we’re not doing in America that are so cool.

(和訳)
こちらにいるトランス男性たちと、きょうだいのようなつながりを築いていくことが、本当に、本当に好きなんです。彼らはアメリカでは私たちがまだできていないことをしていて、それがすごくすてきだなと思います。

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siblingship

「きょうだいのような絆」「きょうだいのようなつながり」

ポイント

「siblingship」は一般的な辞書にはあまり載っていない比較的新しい語で、「siblings(きょうだい)」と「-ship(関係・状態)」を組み合わせた表現です。血縁ではなくても互いを支え合い、家族のような深い絆で結ばれた関係を表すことがあります。

例文

Many participants described a sense of siblingship within the LGBTQ+ community.
「多くの参加者は、LGBTQ+コミュニティの中にきょうだいのような絆を感じていると語った。」

さらに彼はこう続ける。「今のサンフランシスコには僕のようなFTM(女性から男性へ性別移行した人、Female to Male)のためのバーが一軒もないのに、東京には少なくとも3軒はあります。そういう店に行くとあたたかく歓迎されて、自分にも居場所があるんだって思えるんです」

G7加盟国で唯一同性婚が認められていない日本を「アメリカより安全に感じられる居場所」と感じる当事者の言葉はちょっと意外だった。日本で性的マイノリティの権利や制度について関心が広まったきっかけの一つが、2015年にアメリカのすべての州で同性婚が認められたニュースだった。その点だけ見れば、「日本は海外より遅れている」と言うのは簡単かもしれない。
でも、法整備や世間の理解の有無とは別に、日本のセクシュアルマイノリティたちは何世代にもわたって独自のカルチャーやコミュニティを築き上げてきた。その文化や歴史を発信し続けてきた人々が日本社会にさまざまな影響を及ぼしたのは間違いない事実だ。

一般社団法人TransgenderJapan代表の畑野とまとさんは、日本ではトランスジェンダーという言葉の認知度はおろか、世間の性的少数者への理解が乏しく、差別や偏見も激しかった90年代からトランスジェンダー活動家として数々の場で発信を続けてきた方だ。この日も、ブースで物販のかたわらでDJしたり、プライドの歴史に関するトークを行うなど大忙しだったが、その合間でお話を聞かせてもらった。

「2021年に最初のトランスマーチを企画して、50人も来ればいいよね、と話していたところ、500人ぐらいが集まったんです。これは本格的にやったほうがいいってことで、任意団体トランスジェンダーJAPANを作りました。それ以降、トランスマーチ以外にもトランスジェンダーの人権に関わることを色々やっています」

活動家として長く活動されているとまとさんは今の日本社会に人権主義が根付いていないことに危機感を覚えていると話す。
「自分たちで世の中を変えようっていう意識がどうしても薄くなって、誰かが変えてくれるだろうって気持ちになっちゃう。でもそんな受け身の状態になると、社会変革はなかなか生まれないですよ」

そんなとまとさんが実現を願って活動しているのは「トランスジェンダーの人権」ではなく、すべての人のための「ジェンダー平等」なのだと主張する。男性も、女性も、そのどちらに当てはまらない人も、自由に生きられ、平等な権利を認められる社会。どうしてそれが難しいこととされてしまうんだろう。

たくさんの企業や当事者団体のブースが賑やかにアピールする中、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)のカラフルなブースが目に止まった。LGBTQ+に関する複数のトピックから関心のあるものをビー玉で投票するアンケート企画で、自分で選びきれない人はタワー型のおもちゃの上からビー玉を転がし、ビー玉が落ちた先のトピックを選べばOK。参加した人はレインボーカラーの飴をもらえ、自然に対話も生まれる。幼い子どもから大人まで参加を促すインクルーシブな意識が見えた。

世界90カ国・地域から集まる学生が共に学ぶ、多様性あふれるキャンパスとして知られているTUJだが、どんな意図でTokyo Prideにブース出展をしているんだろう。今回は同大学の学生支援・多様性推進部門(LEAD)との合同出展とのこと。ブースにいた経営学修士プログラム担当のAlyssaさんに話を伺ってみた。

「当校に所属する多くのLGBTQ+当事者を含めて、すべての学生にとってキャンパスが安全な場所であるように心掛けていることを知ってもらうためにブースを出しました。大学が成長すると共に学生のニーズも変わっていくので、学生サービス・交流部はすべての学生にとって当校がインクルーシブで安全に感じられるよう日常のサポートなどを担っています。」

セクシュアルマイノリティ当事者の若者が親にカミングアウトすることに大きな不安を抱えることは珍しくない、とAlyssaさんは語る。身近な人からの差別や偏見からくる精神的負担を一人で抱えずに学生が自分自身と向き合えるように、TUJはメンタルヘルスサポートやカウンセリングサービスが十分に行き届くように心がけているらしい。

カリフォルニア出身でサンフランシスコのプライドに何度も参加しているAlyssaさんは
「外から見れば、日本はどちらかというと保守的な国という印象が持たれていると思いますが、個人レベルで見れば日本人はとても好奇心が旺盛で、純粋に知りたい、学びたいという姿勢を持つ人が多いと感じます」と話す。

You would hope that the parents are very accepting and loving of their children no matter what, but sometimes young people don’t even have that knowledge of themselves yet, I think, until they can discover that in college. 

(和訳)
自分の子どもがどんな人であっても、親御さんにはありのままを受け入れて愛してほしいじゃないですか。でも、大学に入っていろいろな体験をするまで、自分が何者なのかに気づかない若い人もいるのだと思います。

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knowledge of oneself

「自分自身についての理解」「自己理解」

ポイント

「knowledge of oneself」は、自分の性格や価値観だけでなく、自分が何者であるかを深く理解している状態を表します。LGBTQ+コミュニティでは、自分のアイデンティティやあり方への気づき・自覚という意味でも使われることが多い表現です。

例文

Talking with others helped deepen my knowledge of myself.
「他の人と話すことで、自分自身への理解が深まった。」

TUJに通うCarolineさんとRayneさんも、親元を離れて一人暮らしを始めたことをきっかけに「より自分らしく」生きられるようになったと語る。

平成の原宿ファッションを思い出させるようなピンクを基調としたポップな服装の二人に話を聞くと
「日本では同性婚が認められていないとか、当事者にとって明らかに困難なことはあると思う。でも、この街ではどう生きようがどんな服を着ようが、他の場所よりも受け入れられる気がします」という意見が返ってきた。

Of course there’s going to be judgment, which is normal, but there’s so many supportive people, and I think it’s pretty easy to find community within this city.

和訳
もちろん、他人からなにか言われたりすることもあるけれど、それはよくあること。でも支えてくれる人はたくさんいるから、この街でコミュニティを見つけるのは割と簡単だと思います。

二人は一通り会場を回ったあとは新宿2丁目のコミュニティで仲良くなった友だちと集まる予定だと教えてくれた。

CarolineさんとRayneさんのお話を聞きながら、記事のために二人のSOGI(sexual orientation and gender identity)を聞いておくべきか少し迷ったが、最終的に聞かないままお礼を言って別れた。さっきのCoreyさんが話したように、取材に応じてくれたとはいえ、見ず知らずの通りすがりの人に突然「あなたのセクシュアリティやジェンダーはなんですか?」と聞かれて快く感じる人はおそらくそんなにいないだろう。

プライドに参加しているからセクシュアルマイノリティ当事者というわけでもなければ、自身の性やジェンダーについてオープンに話せるというわけでもない。ここでは「すべての人が自分らしく生きられる世の中になってほしい」そして「私たちはここにいる、ここでお互いをcelebrateしている」という思いがさまざまな形や色で表現されている。

プライドのような場で使われるcelebrate/celebrationを日常的な日本語に訳するのは難しい。お祝いとも、称賛とも、喜びの表現ともとれる言葉だけど、この場に集まった人々の笑顔を見ていると、その気持ちが共有されていること以外になにかを確認する必要なんてないように思えてくる。

主催者発表によれば今年のパレード参加者は1万5000人だったそうだ。

企業やNPOなどのブロック、業界やコミュニティの有志で集まったグループなど多種多様なフロートが公道を賑わせていた。

パレード参加者にも話を聞いてみたいけれど、どのタイミングで誰に声をかけよう…と迷っていたら、背後から「あっ!ニキさん!」と、聞き慣れた声がした。

振り返ると、毎週ラジオでお世話になっている評論家の荻上チキさんと、ラジオがきっかけで仲良くさせてもらってる認定特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)理事の風間暁さんが立っているではないか。しかも二人とも参加していたパレードが終わったところで、近くの屋台で買った焼きそばを今から食べるところだと言う。焼きそばが冷めないうちに終わらせるんで!と図々しい取材のお願いに快く応じてくださったお二人に感謝を述べたい。

チキさんは東京のプライドパレードにはアライ(LGBTQ+の権利を求める応援者・仲間、ally)として「20年ぐらいほぼ毎年」参加していて、沿道からパレードを応援したり取材したりしてきたが、今年は400人もの人々と一緒に #UpdateHIV のフロートに参加してきたとのこと。風間さんも同じフロートのトラックの上でスペシャルゲストの一人として、喉が枯れるまでコールアンドレスポンスを続けたそうだ。

HIV/エイズに対する社会の気づきや意識をさらに高めるため結成された今回のフロートではHIV陽性当事者が先頭を歩き、去年の2倍になる400人以上の人々が2時間半かけて渋谷・原宿エリアを練り歩いた。日曜日の昼下がり、繁華街の沿道からはどんな反応があったんだろう。

「やっぱ良かったよね。 原宿駅前の交差点の人だかりに向かってHappy Pride!とか呼びかけたら、みんな結構ノリノリだった」と、風間さんは笑顔で話す。

トラックの助手席からマイクでコールアンドレスポンスを担当していたチキさんによると、今日がプライドパレードだと知っていて応援のために待ち構えてくれていた人もいれば、ビックリした顔の人や怪訝な表情で見つめる人もいたらしい。その中でも、何事かとスマホで調べ始める人、驚きながらも笑顔で手を振ってくれたり、親指を立ててグッドサインを送ったりする人も見れたと言う。

「普段は接点を持てないような人と、ストリートで不意打ちでコンタクトできるっていうのが、デモやパレードのすごくいいところだなと思いました。いろいろな反応が見れて良かったです」

LGBTQ+、またはHIV/エイズは自分とはあまり関係ないと思っている人でも、これまで長いこと偏見や差別を経験しながら好奇の目にさらされ、社会の周縁に押しやられていた人々が堂々と街なかをパレードする姿からメッセージを受け取る人もきっといただろう。

「HIVは飛沫感染するとか未だに誤解されてたりするから、やっぱ当事者の声を届けたいって思った。私はHIV陽性じゃないけど、これまで亡くなった当事者の友人もいる。私たちが400人も集まってデカい声で呼びかけたら、沿道の人がああいうふうに返してくれるっていうのは、すごい嬉しかったね」と語る風間さんの言葉がその後もしばらく心に残った。

長く恐れられてきたHIV/エイズだが、最近の研究では、体内のHIVウイルスが検出限界未満(undetectable)の量を維持すれば他の人に感染しない(untransmittable)ということが解明されており、「Undetectable = Untransmittable」が世界の共通認識となりつつある。チキさんと風間さんが参加したフロートにも「U=U」の文字が大きく掲げられ、多くの通行人がこの意味をスマホで調べたに違いない。もしかしたら、この日たまたまフロートを目にしたことがきっかけで、誰かの中に潜んでいた無自覚な偏見や誤解がひとつ解消されたかもしれない。お二人のお話を通して、セクシュアリティやジェンダーに限らないイシューについても重要な発信の役割を担うプライドイベントとパレードの社会的意義について考えさせられた。

夕暮れ時に近づいたころ、2歳と0歳のお子さんたちを連れてパートナーと一緒に遊びに来ていたREIさんにお話をうかがった。


「私たちはストレートなんですけど、元々レズビアンやゲイの友達が多くて、それでみんなで遊びながら友達のブースを見たり、パレードに参加したりするのが恒例だったんです。ここに来ると誰かに会えるので、今もこうして仲間と集まっています。」

最初に参加した頃はピクニック感覚で参加していたイベントがこれほど大きく成長したことに驚かされると同時に、世間との乖離を感じるともREIさんは話す。

「ロンドンのプライドにも行ったことがあるんですが、あちらに比べて日本はちょっと保守的な気もします。でもこれだけ企業にも注目されてますし、歩く人数も増えているので、もう少し国としてのアクションがあればいいなと思いますね。同性婚に関しても、なんでダメなのかわからないです。うちの子ども達が大きくなった時には、もう少し自由があればいいなと思っています」

REIさんが気さくに取材に応じてくれている間、2歳のお子さんはずっと風船を握りしめながら足元を走り回っていた。最近のTokyo Prideでは露出の多い衣装や過度に性的な表現は禁止されているが、それでも幼い子どもを連れて来ることに抵抗はなかったのだろうか。そう尋ねると、「自分たちが昔から来てるから、当たり前のように連れてきちゃってます」と笑う。

「あ、でも上の子はさっきドラァグクイーンの方を見てびっくりしていましたね。なんかすごい人がいるぞって。でも、見ちゃダメ、と言う必要は感じていません。来年には子どもの感性もちょっと変わってると思いますけど、こうやって自由に遊ばせても怖くないです。そういう点でも、Tokyo Prideはすごくいいなって思います」

「世の中にはいろんな人がいる」という事実を、安全な環境で自然に理解できるよう子育てしているREIさんたちのような大人がいることに私はなんだか心強さのようなものを感じた。

将来大きくなったこの子たちの目には、2026年のTokyo Pride、そして日本社会はどう映っているんだろう。

本当に自由で平等な社会を作るためには、どんな人も差別されず、取り残されないことを保障する制度が必要不可欠だと思う。政治や法律について考えるのは難しい。けれど、パレードやパーティーを楽しむなかでちょっとでも「自分たちにできること」を考える人が増えれば、社会はもっとやさしい『居場所』になれるんじゃないだろうか。

すべての取材が終わった後で、公益社団法人MARRIAGE FOR ALLのブースに立ち寄ってみた。そこでは同性婚の実現を求める署名への参加が呼びかけられ、テーブルの上にはたくさんのメッセージカードや色とりどりのマーカーが散らばっていた。来年のTokyo Prideが開催される頃には世の中がもっと寛容に、平等に、生きやすくなっていることを願いながら、私は自分の好きな色のペンを選んだ。


キニマンス塚本ニキ
東京都生まれニュージーランド育ち。オークランド大学卒業後、数々の職を経て英語翻訳・通訳として独立。
TBSラジオ「アシタノカレッジ」でラジオパーソナリティーに転身後、コラム執筆、ボイスタレント、講演活動など活動は多岐に渡る。著書に『世界をちょっとよくするために知っておきたい英語100』がある。

キニマンス塚本ニキさんの独占インタビューはこちらから