4技能に効く音読トレーニング、ヒソヒソ声でもOK?

英語学習に有効な音読トレーニング

読む(リーディング)、聞く(リスニング)、書く(ライティング)、話す(スピーキング)、いわゆる英語の4技能すべてに効果を発揮すると言われている音読トレーニング。特別な準備もなく、すぐに始められるため、学習に取り入れている人も多いのではないでしょうか。

効果的なトレーニングである一方、一つ欠点(?)があるとすれば、場所を選ぶということ。静かな図書館や人の多いカフェ、通勤・通学の電車内で音読をすることは難しいでしょう。「他に勉強できるタイミングがない」「少しの時間も惜しい」という人の中には、周りに聞こえない程度の「ヒソヒソ声」で音読に取り組んでいる猛者も珍しくありません。

ここである疑問が生じます。

小声でも音読の効果は得られるのでしょうか……?

筆者はヒソヒソ声トレーニング、無理でした。といってもこれは英語ではなく「落語」のトレーニングの話です。

学生時代に落語研究会(!)に所属し、素人落語をやっていた私。落語はすべての登場人物を一人で、身振り手振り交えながら演じる芸能です。どんなに短くても5分、長い演目では30分ほど演じ続けなければなりません。演じるということはその分のストーリーやセリフをすべて覚えるということ。プロが上演するDVDを観てノートにセリフを書き起こし、壁の薄い学生寮で隣近所に気を遣いながら夜な夜な小声で台本の暗記を試みたものです。

ようやく台本を開かなくても最後までスラスラ呟けるようになった、これで高座に上がれるぞ……と思うとそれが大間違い。口の中だけでヒソヒソと話す分には流暢なのに、いざ本番同様に声を張り上げてみると、声を出すことに気を取られてしまい、「次は何だっけ?」と言葉が続かないのです。それからは、台本を覚えた後は必ず本番同様に声を張って暗唱する練習を繰り返すようになりました。

落語に限らず、似たような経験をしたことはありませんか?

音読によって言語を習得する、脳のしくみ

そもそも、なぜ音読が英語学習に有効なのでしょうか。現在の脳科学研究では、言語習得のシステムについて、次のように考えられています。

言語活動を支える大脳。その大脳の中では、言葉を見聞きして理解するウェルニッケ野、言葉を発するブローカ野の2つの領域が主に機能していると言われています。英文を目で追うと、そこに書かれている文字はウェルニッケ野で情報として処理され、その情報をブローカ野が受け取って口から発話します。自ら音声化した言葉は耳から再びウェルニッケ野に届けられ、正しくアウトプットされているかどうか判断します。

見る、発音する、自分の発音を耳で聞いて再認識する。この繰り返しによって言語は習得されるというわけです。自分の発音を耳から取り入れることを考えると、音読の声ははっきり聞こえるほうがより効果的だと言えそうです。

英語と日本語ではアクセントの手法が違う

英語は、大きくはっきりと発音することが求められる言語です。英語学習に欠かせない項目のひとつにアクセントがありますが、英語の場合は音の強弱でアクセントをつける(ストレスアクセント)のに対し、日本語では音の高低でアクセントをつけます(ピッチアクセント)*。

English [ /íŋglɪʃ/ ]

Japanese [ /dʒ`æpəníːz/ ]

卵 タマ↘ゴ

温度 オ↘ンド

* 現在の日本語音声学では「下がり目」の有無や位置によってアクセントを認識する考え方が主流とされていますが、ここでは「強弱」との対比として「高低」という表現を使います

このアクセントの違いを体得するためには、やはり平常時と同じように声を出して身体に慣らすことが大切でしょう。

シンプルに度胸をつけるという意味でも、大きな声で話すのに慣れておくことは不可欠です。ネイティブのような発音や正しい文法を求めるあまり、間違いや指摘を恐れて普段より小さな声で話してしまう、という経験談をよく聞きます。自覚できていれば良いほうで、ヒソヒソ声で話すことが習慣化してしまい、知らず知らず英語を話す声が小さくなってはいないでしょうか。

聞き取れない主張は受け入れられないというのはどの国でも共通です。堂々と話すことができないと、発音や文法だけでなく自分の意見に自信がないのだと見なされ、対話に加えてもらえなくなってしまう懸念すらあります。

急に大きな声で話そうとしてもなかなかうまくいかないものです。いつもと違う発声に脳がびっくりして、頭が真っ白になり英語が出てこないというケースもあり得ます。普段と同じぐらい、むしろ普段より大きな声で話すトレーニングをしておくことはとても重要です。

たまには大きな声で話す機会を設けてみませんか?

とはいえ、朝の満員電車で大きな声で音読トレーニングをすることが現実的でないのは明らかです。何もしないよりは、小声でも口に出すトレーニングを毎日繰り返したほうが必ず力になります。

毎日家で筋トレをしながら週末はジムへ通うように、ヒソヒソ声トレーニングの習慣に加えて、大きな声で音読する機会を定期的に設けてみませんか?

たとえば、早朝の公園や河川敷は人が少なく、声を出すのにも抵抗が薄れるかもしれません。朝一番に声を張ると身体も目覚め、気持ち良く一日をスタートできるという特典付きです(そういった意味でも、深夜よりは早朝のほうがおすすめです)。都市部では、カラオケボックスなら大きな声を出しても恥ずかしくありません。実際、落語家やお笑い芸人の方々はカラオケボックスで練習をすると聞いたことがあります。また、最近では防音マイクというものも市販されています。マイクの先に口を覆うカバーが付いていて、大きな声を出しても音漏れが最小限に抑えられるため、自宅での音読トレーニングに有効です。

せっかく英語を身につけるなら、実践につながるものにしたいですよね。無理のない範囲で工夫をしながら音読トレーニングに取り組んでいきましょう!