フェミサイドの悲惨な現実
英文記事執筆:まりか / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部 / 写真:Carolina Jaramillo / Shutterstock.
定義・特徴・統計
国連女性機関(UN Women)の記事によれば、「フェミサイドとは、ジェンダーに関連した動機による意図的な殺害」と定義されています。それは、制度化された性差別、不平等な権力関係、女性嫌悪、性差別、そして有害な社会規範によって引き起こされます。
ジェンダーに基づく動機を示す特徴としては、加害者による被害者への過去の嫌がらせや暴力の記録、拉致または誘拐、被害者の遺体の切断、遺体が公共の場所に遺棄されていること、憎悪犯罪、殺害前に加害者が被害者に対して行った性的暴力などが挙げられます。被害者が性産業に従事していた場合や、人身取引・奴隷制などの不法な搾取の被害者であった場合の殺害も、フェミサイドとして分類されます。
2023年には、約5万1,000人の女性と少女が、親密なパートナーまたはその他の家族によって殺害されました。フランスではフェミサイド被害者の97%が加害者を知っているとされており、この傾向は他の西ヨーロッパ諸国でも確認されています。
男性と少年が殺人被害者の大多数を占める一方で、女性と少女の圧倒的多数は私的な空間で殺害されており、そのような空間でさえ極めて危険であることを示しています。
2024年は、親密なパートナーまたは家族によって殺害された女性と少女の数が過去最多を記録しました。国際連合はフェミサイドを「最も極端な形の暴力」と呼び、今日の世界における女性と少女の脆弱さを示す証拠であると述べています。
トランスジェンダーの人々に対する暴力も世界的に増加しており、「トランス殺害モニタリング2023(Trans Murder Monitoring 2023)」の研究データによると、報告されたトランスジェンダー殺害事件の94%がトランス女性またはトランスフェミニンの人々でした。
トランスジェンダー女性、難民、移民などの脆弱な人々は、女性に対する暴力の増加傾向によって、さらに社会の周縁に追いやられ、危険にさらされています。
フェミサイドについての議論は年々増えているものの、多くの国ではそれを別個の犯罪として分類していません。加害者は単に殺人や過失致死罪で起訴されるだけで、その性別に基づく動機が公式に明示されることはありません。
最近のフェミサイドのニュース
この夏、日本のニュースは女性殺害の報道であふれました。8月には、わずか1週間のうちに3件の事件が立て続けに発生しました。いずれの事件にもフェミサイドの要素が強く見られます。
8月20日、兵庫県神戸市のマンションで24歳の女性が殺害された状態で発見されました。彼女の殺害で逮捕された男は、広島で別の女性を襲撃する計画を立てていたと供述しました。その事件の翌日、別の男が自宅で61歳の母親を殺害したとして逮捕されました。8月26日には、千葉県で女性が交際相手の男性に殺害されました。
また、15歳のララ・グティエレス、20歳のモレナ・ヴェルディ、同じく20歳のブレンダ・デル・カスティーヨの残虐な拷問とライブ配信された殺害事件は、アルゼンチンのブエノスアイレスで大規模な抗議運動を引き起こしました。3人の被害者はバンに誘い込まれた後、5日間行方不明となり、家の庭に埋められた状態で発見されました。2025年1月、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、刑法からフェミサイドの項目を削除すると発表しました。前年には、ジェンダー不平等問題を扱う政府機関を閉鎖しています。BBCの報道によれば、アルゼンチンでは36時間ごとに女性が男性に殺害されています。
ドイチェ・ヴェレ(DW)によると、ドイツでも女性への暴力が増加しています。ドイツでは2日に1人の女性がパートナーまたは元パートナーによって殺害され、ベルリンでは週に2件のフェミサイドが発生しています。女性保護施設は資金不足に苦しんでおり、避難を求める被害者全員を受け入れるだけのベッドが不足しています。
ジェンダーに基づく暴力を防ぐために
国連女性機関は、女性に対するジェンダーに基づく暴力を防ぐための行動リストを公表しています。まず何よりも、被害者の声を聞き、信じることが極めて重要です。虐待について語ることは、大きな勇気と覚悟を必要とする行為です。彼女たちは、自分が受けた暴力について恥や罪悪感を抱くかもしれませんが、責任は加害者のみにあることを忘れてはなりません。もし周囲に被害者を非難する人がいれば、それがどれほど有害で逆効果であるかを思い出させましょう。
女性への暴力を防ぐうえで、最も重要な方法のひとつは「教育」です。幼い頃からジェンダーの役割、同意、身体の自主性、責任について話し合うことが必要です。それによって、性差別的・女性蔑視的な考えが称賛されるのではなく、否定される環境を育むことができます。互いに責任を持ち、レイプ文化に立ち向かい、同意を理解し、虐待の兆候を学ぶこと――こうした行動はすべて、伝統的な価値観や暴力の連鎖に挑戦するために私たち全員が取ることのできる手段です。
emoji_objects本記事の重要フレーズ
〜の大部分を占める/〜の過半数を構成する
“men and boys make up the majority of homicide victims” (男性と少年は殺人事件の被害者の大部分を占めている) 「make up」は「構成する」「形作る」という意味。「the majority of(〜の大多数)」と組み合わせることで、 全体の中で大きな割合を占めている ことを表します。 統計や報告文などで頻出の表現で、 単に「多い」というよりも、全体の構成比として過半数以上を示す ニュアンスがあります。
menu_book参考文献
トランスジェンダーの人々の現状について深く知りたい方におすすめの記事はこちら:https://mag.polyglots.net/1606/joyland