「侘び寂び」―不完全に宿る完璧さ
翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
日本人が海外を旅行すると、日本を愛する外国人と出会うことがよくあります。彼らは歌舞伎や侍、能、茶道、さらには忍者についても知っているかもしれません。外国人がこれらの伝統について日本人に尋ねたとき、日本人があまり詳しく知らないと驚かれることがあります。熱心な新しい知り合いが、日本人が歌舞伎を一度も生で見たことがないと知ったときの驚いた顔を想像してみてください。
東京に本社を置くある製薬会社の女性CEOも、まさにこの問題に直面しました。彼女はインドを訪れ、日本文化について多くの質問をされましたが、すべてに答えることができないと気づきました。その解決のために、彼女は The Japanese Mind*に基づくクラスを受講しました。この本は日本の伝統をわかりやすく説明し、よくある文化的な質問に答える助けとなりました。
そして外国人がよく尋ねる質問のひとつが「侘び寂びとは何ですか?」というものです。
侘び寂びとは?
ある論文によれば、侘び寂びは「不完全さを調和の基盤として重視する」日本の思想・哲学です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば、侘び寂びとは「完璧でもなく、完成されてもおらず、永続しないものの美しさ」です。
アメリカの歌手ジョン・レジェンドは、自身の曲 All of Me の中で「完璧な不完全さ」こそ、その人を愛する理由だ、とを歌っています。これは侘び寂びの意味にとても近い表現です。
・侘び寂びは、不完全さを讃えます。小さなひびの入った手作りの陶器の椀は、機械で作られた完璧なものよりも美しいかもしれません。
・侘び寂びは、無常を讃えます。秋の赤や金色の葉が美しい理由の1つは、それが永遠には続かないからです。
・侘び寂びは、本物らしさを讃えます。庭のごつごつした石は、左右対称に磨かれたものではなく、自然だからこそ美しいのです。
クレイグ・タロー・ゴールドの “Living Wabi Sabi” にはこうあります。
「あなたも私も、人生そのものの“完璧に不完全な”本質を映し出しています。自分自身と――不完全さも含めて――折り合いをつけることができれば、私たちが想像できるあらゆる成功、愛、そして安らぎは本来の権利だと気づくのです。」
つまり侘び寂びは物に限らず、人生や人、そして人間関係についても語っているのです。
侘び寂びではないもの
何が侘び寂びではないかを知ることも大切です。中には、侘び寂びを怠けや低品質のことだと誤解する人もいますが、それは間違いです。座ると壊れるような粗悪な椅子は侘び寂びではありません。屋根を放置して崩れるのも侘び寂びではなく、ただの怠慢です。
侘び寂びは努力と同時に受容の考え方です。例えば、家族の食事でついた傷が年月を感じさせる木のテーブルは侘び寂びです。しかし、怠慢から汚れたり壊れたままになっているテーブルは侘び寂びではありません。
身の回りの侘び寂び
侘び寂びを探し始めれば、至るところに見つかります。友人の顔にあるそばかす。笑顔を特別なものにする歯のすき間。あなたを優しくて思いやりのある人に育てたつらい経験。あなたを印象的にする、少し突き出た耳。知恵と人生経験を示す白髪。
侘び寂びは、日常生活の中に美を見出すことを教えてくれます。それは、幸せに完璧は必要ないと気づかせてくれるのです。むしろ、傷跡や老い、失敗や違いにこそ美しさがあるのです。
なぜ侘び寂びが大切なのか
日本文化において、侘び寂びは単なる思想以上のものです。それは生き方であり、人に自然を尊び、変化を受け入れ、誠実さを大切にすることを教えます。外国人にとっては、侘び寂びを学ぶことが新しい考え方への扉を開くきっかけになります。完璧を追い求めるのではなく、人生の自然な流れを楽しむことを学べるのです。
ですから、次に誰かに侘び寂びとは何かと尋ねられたときには、こう答えることができます。
「それは、不完全さ、無常、本物らしさに美を見出す日本の考え方です。」
そして、もしかするとその人も、自分の人生の中に侘び寂びを見つけ始めるかもしれません。
・Japanese Mind:書籍。著:Roger J. Davies、Osamu Ikeno。
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emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「自分と折り合いをつける」「自分を受け入れる」
「make peace with ~」はもともと「~と和解する」という意味で、“make peace with someone” なら「誰かと仲直りする」。 ここでの “oneself” は「自分自身」との関係を指し、“make peace with oneself” は「自分の欠点や過去を受け入れ、心の中で和解する」というニュアンスになります。