トランプ政権下で進む移民政策と人権侵害
英文記事執筆:まりか / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部 / 写真:Christopher Penler / Shutterstock
適正手続きなしの強制送還が、人々を差し迫った危険にさらす
トランプ政権による非正規移民(undocumented immigrants)への取り締まりの開始以来、ICE(移民・関税執行局)が適正手続きなしに強制送還を行ったという報告と訴訟の急増が見られてきました。
適正手続き(due process)は、アメリカ合衆国において市民と非市民のすべてに与えられた憲法上の権利であり、すべての個人が自らの権利を守り、公正な審理を受ける機会を持つものです。これは、人々を突発的で権威的な政府の決定から保護します。
適正手続きの権利の剥奪は、法により義務づけられている法的審理なしに、亡命希望者を含む非正規移民の迅速な強制送還をもたらしたトランプ政権の大統領令の中で、注目される問題となっています。
NPRによると、トランプ政権は、CBP Oneモバイルアプリ(アメリカ合衆国税関・国境警備局が提供するサービスのためのアプリ)を使用して合法的に入国した移民に対し、ただちに出国するよう命じています。政権が3月下旬に下したもう一つの危険な決定は、アメリカ国内にいる単独の未成年者に法的支援を提供する連邦契約を終了するというものでした。このことは、保護者のいない26,000人の子どもたちを、人身売買や搾取の差し迫った危険にさらすことになります。さらに、多くの移民裁判官が休職または解任されました。
ガーディアン紙によると、2025年6月の一日あたりの平均移民逮捕数は、前年6月と比較して268%増加しており、逮捕された人々の大多数は犯罪歴を持っていませんでした。国内の至るところにあるICEの収容施設で現在何万人もの人々が拘束されていることに加えて、トランプ政権は、9.11(2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件)後に罪状の明確でないまま何百人もの無実のイスラム教徒の男性や少年を拘束・拷問したことで悪名高い施設、グアンタナモ湾収容所に3万人の移民を収容する場所を確保すると発表しました。
ICE収容施設における虐待
ICEには人権侵害の長い歴史があり、精神的な危機に陥っている個人への対応としての独房監禁、遅くていいかげんな医療対応、身体的虐待、強制労働、性的暴行など、数多くの非難に直面してきました。
今年6月、移民収容施設における人権侵害に関して開始された調査の結果による新たな報告書が発表されました。調査では、死亡事例、妊婦や子どもの虐待、不衛生な生活環境、不十分な食料と水、家族の分離などが確認されました。がん治療を受けていた4歳の子どもが、医師に相談する許可なしに強制送還されたと報告されています。また、脳手術から回復中であった10歳の子どもが家族とともに拘束され、必要な医療を拒まれ、脳の腫れや言語、運動の困難に直面しています。NBCニュースによると、ICEは、母親とともに国外追放される予定だった3人のアメリカ市民の子どもをホンジュラスへ送還しました。そのうちの1人、5歳の少年は、まれな種類の腎臓がんの治療を受けていました。
カリフォルニア州のICE処理センターからは、性的暴行またはその脅迫を報告する少なくとも2件の911通報が行われ、テキサス州のICE処理センターからは性的虐待に関する少なくとも4件の通報がありました。
上記で述べられた事例は、国内で発生している何千件もの事例のほんの一部にすぎません。家族は引き裂かれ、子どもたちはほとんど知らない国に送り返され、拘束中に受けた虐待のトラウマは、その人々の精神的健康に長期的な影響を残すでしょう。すべての個人は、どのような状況であっても、決して侵害されてはならない人権を持っています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、トランプ政権は「すでにアメリカ国内および世界中で人権を損なっている」と述べています。
emoji_objects本記事の重要フレーズ
非正規移民/書類のない(無登録の)移民
“undocumented immigrants” は直訳すると「書類のない(無登録の)移民」で、 在留資格や滞在許可証(ビザなど)を持たずにその国に滞在する人々を指します。在留資格のない滞在にはさまざまな事情があるため、法的な地位ではなく、その人の滞在の状態を客観的に説明するこのような中立的な表現を使うことが多くなっています。