なぜ今チェスが人気なのか?ーコロナ禍、ドラマ、eスポーツ
英文記事執筆:Sean Furniss / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
チェスの歴史的起源から、オンラインチェスブームまで
チェスは歴史あるゲームであり、今日一般的に知られている形の歴史は16世紀にまでさかのぼります。その初期の形は、西暦600年ごろのインドのゲーム「チャトランガ」に起源があります。
それにもかかわらず、過去10年間でチェスは驚くべき人気の急増を経験しました。オンラインプラットフォーム「Chess.com」は2億人の会員を抱えています。チェスがこれほど人気を得ている理由のひとつは、それが非常に簡単に覚えられる一方で、決して極めることができないという点にあります。両プレイヤーが5手ずつ指した時点で、500万通りの可能な局面が存在します。しかし、この複雑さがこれまでチェスを「知的な人々のための戦略ゲーム」というイメージに押し込めてきました。
このゲームの現代的な復興はこれまでとは異なり、多くの新しいプレイヤーがビデオゲームを楽しむ人たちと共通する層に属しています。「Chess.com」のようなウェブサイトのおかげで、チェスは今やビデオゲームのように、携帯電話でもコンピューターでも、いつでも手の届くところにある存在になりました。授業中に注意を払う代わりに遊べるほどです。
ロックダウンはいかにブームを後押ししたか
新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンと、オンライン・チェスの人気上昇との間には大きな相関関係があり、それは偶然ではありません。誰もが自宅に閉じ込められ、時間をつぶすものや新しい趣味を探していた状況の中で、オンライン・チェスは完璧なゲームでした。チェスのプレイヤーにはレーティング(実力を示す数値)が与えられ、この数値は達成感を生み、それを上げようとすることが多くの人にとって中毒的な魅力になりました。
このことは、ロックダウン中にチェスのプレイヤーの数が増えただけでなく、チェス関連コンテンツの視聴者数も増えたことを意味します。多くのチェス系YouTuberやストリーマーがスターとなり、教育的なものから個性重視のものまで、さまざまな内容で数百万の再生数と登録者を得ました。世界のトッププレイヤーでさえ、自らの対局を配信することに惹かれるようになり、世界ランキング第2位のヒカル・ナカムラは、「チェスのグランドマスターとしてよりも、コンテンツクリエイターとしての方がはるかに多く稼いでいる」と語っています。
しかし、人気の爆発的な上昇をもたらした最大のきっかけは、Netflixのヒットドラマ『クイーンズ・ギャンビット(The Queen’s Gambit)』の公開でした。公開から28日以内に6,200万人がこの作品を視聴し、その物語に触発されて、自分でもゲームを習得してみようとする人が多く現れました。
社会的な復興とeスポーツとしてのチェス
ロックダウンが終わった後も、チェスの人気は落ちず、むしろ人々がチェスの「社交的なゲーム」としての素晴らしさを再発見したことで、さらに成長を続けました。人々は他の人と直接向かい合ってプレイすることに興奮し、その結果、世界中のチェスクラブで新しい会員が増えました。また、チェスの視聴者数も維持されています。「Chess.com」は最大の配信サービス「Twitch」と提携し、多くの人々がeスポーツとして、最高のグランドマスターたちがさまざまなトーナメントで競い合う様子を観戦しています。
さらに、「Gotham Chess」や「Botez Sisters」などのストリーマーたちは、高いレベルのプレイヤーでありながらも、より“楽しさ重視”のコンテンツを発信し、プレイヤーたちのためのコミュニティを作り出しています。
チェスは、多くの人々によって「人生の比喩に満ちたゲーム」と表現されます。今日のチェスは、教育的な戦略ゲームとしての側面と、競技的で楽しいeスポーツとしての側面の両方を担う存在となっています。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
~に惹かれる/~に引きつけられる
“be drawn to” は、心や注意が自然とその対象へ引き寄せられるイメージを表します。意図して選んだというより、気づいたら惹かれていたという柔らかいニュアンスがあり、文章でも会話でもよく使われます。 Even the best players in the world were drawn to broadcast their game. 「世界のトップ選手たちでさえ、自分たちの試合を配信したいと惹かれた。」