映画「Pad Man」で、生理の貧困を考える
英文記事執筆:まりか / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
心あたたまる映画「Pad Man」
「Pad Man」(2018, 邦題:「パッドマン 5億人の女性を救った男」) は、インドの農村地域の女性のために、低価格で衛生的な生理用ナプキンを製造することに人生のすべてを捧げたアルナーチャラム・ムルガナンダムの実話に基づく映画です。彼は妻と結婚した後、毎月の生理の間、彼女が屋外で寝ており、生理用ナプキンとしてぼろ布を使っていることに気づきました。これについて問いただしたとき、彼女は、毎月の生理用ナプキンを買うお金が十分にないこと、そしてこの地域の女性たちは非常に長い間ずっとこうしてきたのだと言いました。彼は彼女の健康を心配し、さまざまな素材を使ってナプキンを作る実験を始めますが、成功しないままです。時が経つにつれ、生理にまつわるスティグマ*のせいで、彼は地域社会から避けられるようになります。
映画は、彼がナプキンを製造するうえで試行錯誤を重ねる旅路を描き続けます。この映画は、妻への男性の愛についての心あたたまる物語であるだけでなく、生理の貧困という問題に光を当てる美しい作品です。

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生理の貧困とは何か?
生理の貧困は、毎年数百万人に影響を及ぼす、世界的な公衆衛生上の問題です。UN Women によれば、生理の貧困とは「生理の健康を管理するために、生理用品、衛生・衛生設備、教育や認識にアクセスしたり、それを購入することができない状態」と定義されています。生理の貧困は女性だけでなく、トランス男性や、性自認が男性/女性のいずれにも当てはまらないノンバイナリーの人々にも影響する問題です。生理に関するスティグマと、「ピンク税」*のような有害な政策が、脆弱な人々をさらに周縁化する問題を作り出してきました。ウィスコンシン大学マディソン校の貧困研究所が実施した調査によると、アメリカでは、トランスジェンダーの男性の約 34%、ノンバイナリーの人々の 24%が貧困状態にあり、これはシスジェンダー*の人々の 16%と比べて高い割合です。
アメリカでは、ティーンの 4人に 1人、大人の 3人に 1人が生理用品の購入に苦労しており、イギリスでは 10人に 3人が同じ状況にあります。これは特に有色人種や低所得家庭により影響すると報告されています。これはこの問題が、性差別に根ざすだけでなく、人種差別や資本主義にも根ざす交差的な問題であることを示しています。例えば日本では、女性の 40%以上がパートタイムで働いており、契約のために福利厚生を受け取らず、特にひとり親家庭、そしてシングルマザーの家庭が経済的に不安定な状況に置かれています。
EBSCOによれば、「ピンク税とは、男性向けの類似商品と比べて、女性向けに販売される商品やサービスにしばしばより高い価格が設定されることを指す」とされています。生理用品が必需品であるにもかかわらず、ほかの品目よりも高い税率が課されており、金銭的負担を抱える多くの人にとって入手が困難になっています。同様に日本でも、生理用品には 10%の税率がかけられていますが、食品や飲料のような他の必需品には 8%が適用されています。一方で、活動家の努力によって、生理用品の税率を下げようと取り組む国もあり、オーストラリア、カナダ、インド、ルワンダなど複数の国が、タンポンやその他の生理用品の税金をなくしました。2020年には、スコットランドが、学校や他の公共の場で無料で生理用品を提供する法律を初めて成立させました。
日本の状況
日本の厚生労働省は、2022 年に初めて生理の貧困についての調査を実施しました。回答者の 8%が、「頻繁に」または「時々」生理用品の購入に苦労すると答えました。この 8%のうち、50%がナプキンを取り替える頻度を減らしたと報告し、43%が代わりにトイレットペーパーやティッシュペーパーを使うと答えました。トイレットペーパーやティッシュペーパーを使うと答えた人の約 70%がかゆみを経験し、40%はナプキン購入のために、娯楽活動や個人的なイベントへの支出を諦めたとも述べました。
#minnanoseiri(#みんなの生理)という団体は、日本の生理の貧困の問題に取り組んできました。2019年、共同代表の谷口歩実さんは、消費税率が10%に引き上げられた際に、生理用品の税率を下げるための署名活動を開始しました。この署名は8万件以上の賛同を集めています。彼らは2020年10月からは、生理が人々の経済的ストレスにどのような影響を与えるかについてのオンライン調査の収集も始めました。ある回答者は、「一日中、夜用ナプキンを 1 枚だけで済ませないといけなくて、臭いやかゆみが出ます」と述べました。不衛生な生理の対処法は、病気を発症するリスクを高め、多くの人が痛みとともに、しばしば沈黙のうちに耐えなければならなくなります。
世界ジェンダー・ギャップ報告書によれば、日本は148か国中118位で、G7の中でも最も低い順位の一つです。今年の初め、日本のある県議会議員が X に「トイレットペーパーのように、生理用ナプキンをどこにでも備えてほしい」と投稿しました。それから3日間のあいだに、議会事務局には同じアドレスからの殺害予告メールが8,000通届きました。専門家は、これは日本社会に深く根付く信念を反映しており、声を上げる女性がジェンダーに基づく嫌がらせによってしばしば沈黙させられるという現状を示していると述べています。広島大学の社会学准教授である北中千里氏によれば、殺害予告は極端であるものの、公の場で声を上げる女性への暴力的なメッセージは日本では一般的です。さまざまなニュース記事が報じているように、日本の多くの政治家は、女性、LGBTQ+ の人々、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)*などをめぐって、非道な発言を続けており、露骨な差別や憎悪表現を容認する文化を広めています。しかし、#minnanoseiri のような団体の活動や、他国での法的な前進は、私たちに希望を与え、社会がどうあり得るかを想像させてくれます。
スティグマ:元々は「烙印」と言う意味で、特定の事象や属性を持った個人や集団に対する、間違った認識や根拠のない認識を言う。スティグマは、その結果として対象となる人物や集団に対する差別や偏見となり、不利益や不平等、排除等のネガティブな行動の原因として社会的に問題となることが多い。
ピンク税:女性向けに販売された製品やサービスが、男性向けに販売された製品やサービスよりも、高価な傾向にあることを表現した言葉。
シスジェンダー:自認(自分の性をどのように認識するか)と生物学的な性別が一致している人のこと。
SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利):自分の体、性や生殖について、誰もが十分な情報を得られ、自分の望むものを選んで決められること。そのために必要な医療やケアを受けられること。
詳細:https://www.joicfp.or.jp/jpn/know/about_srhr/rh/
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「〜に避けられている」「〜から敬遠されている」
「shun」は意図的に距離を置く強い動作を表し、「be shunned by」は特定の相手や社会から否定的な理由で遠ざけられている状態を示す。個人レベルの単純な「avoid」と異なり、集団的・社会的に排除されるような重いニュアンスがある。As time goes on, due to the stigma of menstruation, he is shunned by his community. 「時がたつにつれて、生理に対する偏見のため、彼は地域社会から敬遠されている。」