あなたの「注意」がお金になる時代?「アテンション・エコノミー」の心理学

英文記事執筆:Sean Furniss / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部

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アテンション・エコノミーとは何か?

多くの人は、ソーシャルメディアをスクロールしているときにお金をまったく使わないので、それが無料だと考えています。しかし、人が動画や投稿に触れるたびに、彼らは「アテンション・エコノミー」と呼ばれるものに参加しています。アテンション・エコノミーとは、人間の注意が商品になってしまった体系を指します。これは、お金で支払う代わりに、人々の限られた注意が一種の通貨になるということを意味します。

エンゲージメントやデータを追求する中で、多くの企業や人々が人々の注意から利益を得ようとして競いあっています。そのため、ソーシャルメディアのアプリは、人々を関与させ続け、フィードのスクロールをやめにくくするように設計されています。この循環は、注意がデータを生み、そのデータが広告に利用され、そして広告がさらに人々を関与させ続けるための戦略に資金を提供する、というものです。

アテンション・エコノミーは悪なのか?

企業が注意を巡って競争することは、世界の終わりのようには見えないかもしれませんが、アテンション・エコノミーはいくつかの非常に有害な結果と結び付けられてきました。フロリダ国際大学によるある研究は、アテンション・エコノミーが有害かどうかを調べることを目的とし、それが個人レベルと社会レベルの両方での害と関連していることを見いだしました。

個人レベルでは、その研究は、ソーシャルメディアの大量使用と、より高い不安・うつ・孤独感の割合との間に一貫したつながりを見つけました。これは、ソーシャルメディアの使用が、対面での交流のような、良い幸福感に結び付く他の活動の時間を減らすという事実と組み合わさっています。

アテンション・エコノミーは、フィルターバブル*を生み出すため、社会にとっても有害です。フィルターバブルとは、人々が自分の信念を支持する情報だけを見るデジタル空間です。フィルターバブルがあるため、ソーシャルメディアのサイトは、過激な考えを持つ集団が形成され、非常に限られた反対意見しか受けずに存在できる場になります。なぜなら、そのサイトは、同じような考えを持つ人々だけを彼らに結び付けるからです。

設計者たちは、人間の心理を利用しようとして、人を操作しようとするシステムを意図的に作ります。アテンション・エコノミーによる最大の害は、これらのシステムが、人が自分自身のために合理的な決定を下す能力である「認知的主体性」を損なうときに生じます。

いくつかの対処法

これらのシステムから身を守るためには、オンラインで出会うすべての情報を分析するのが理想的ですが、情報があまりにも多いため、この方法は不可能です。ある研究論文は、人々が認知的主体性を守るための実践的な枠組みとして、「クリティカル・イグノアリング(Critical ignoring)」*と呼ばれる概念を提案しました。クリティカル・イグノアリングは、すべてを分析するのではなく、どの情報に関与するかを選択することに重点を置きます。取り入れる情報量を制限することで、人々は1つ1つの情報とより自信を持って向き合うことができます。

その枠組みで使われる1つの戦略は「セルフナッジ(self-nudging)」*で、人々が誘惑に抵抗しやすくなる環境を自分で作るものです。例えば、通知を無効にしたり、画面を白黒にしたり、アプリに時間制限を設定したりすることです。別の戦略は「ラテラル・リーディング(lateral reading)」*で、人々が情報に関与する前に、他の情報源を調べて検証するものです。

注意が価値ある資源となり、膨大な情報の海に関わる世界において、人々は自分の注意が利用されているときに気づいていなければなりません。自分の注意をどこに置くかを選択的にすることで、人々は自分で考える能力を保つことができます。


フィルターバブル(filter bubble):オンラインのプラットフォームや検索エンジンが、利用者の過去の閲覧履歴・クリック・関心に基づいて情報を選別することで、利用者が自分と同じ考えや嗜好に合う情報だけを受け取りやすくなり、異なる視点や反対意見に触れにくくなる状態。アルゴリズムによる情報の偏りが、利用者の認識空間を泡(bubble)のように狭めてしまう現象を指す。

クリティカル・イグノアリング(critical ignoring):大量の情報すべてに注意を向けず(ignore=無視する)、どの情報に関与するかを意識的に選択することで、注意や思考力を守る判断戦略。情報の取捨を主体的に行うことを重視する概念。

ラテラル・リーディング(lateral reading):オンラインの情報の信頼性を判断する際に、1つのページ内だけを読むのではなく、同時に他の情報源や外部サイトを横断的(lateral)に参照して、内容の正確性を検証する方法。

セルフナッジ(self-nudging):行動経済学のナッジ理論(人の選択を強制せずに望ましい方向へ促す[nudge=そっと後押しする]枠組み)を、自分自身に適用する方法。環境や設定を自分で調整して、自分の行動を導きやすくする行為を指す。

emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ

in pursuit of

「〜を追い求めて」「〜を求めて」

ポイント

目標や利益などを得るために積極的に行動している状況を表します。特に「利益・名声・成功・真実」などの抽象的価値を追う文脈でよく使われ、文章に少しフォーマルで論理的な響きを与えます。 In pursuit of engagement and data, many companies and people compete to profit from people’s attention. 「エンゲージメントとデータを求めて、多くの企業や人々が人々の注意から利益を得ようと競い合っている。」

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