NASAの意外な失敗が教えてくれたこと

英文記事執筆:Everett Ofori / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部 / 写真:Pandora Pictures / Shutterstock
NASA のような組織について考えるとき、私たちは大きな予算と優秀な頭脳を思い浮かべます。NASA は、人類を月へ送り、無事に帰還させるといった目に見える成果によって、何百万人もの人々に感動を与えてきました。また、NASA の研究は、傷がつきにくいレンズや水の浄化システムといった発明を通じて、私たちの日常生活の改善にもつながっています。そのため、このような組織から学べることは多くあります。
しかし驚くことに、NASA でさえも失敗を犯します。その中の一つの失敗は、明確に伝えること、理解を確認すること、そして作業をダブルチェックすることの重要性を、私たちに教えてくれます。
メートル法とヤード・ポンド法の失敗
1999 年、NASA は「マーズ・クライメイト・オービター」(Mars Climate Orbiter)と呼ばれる宇宙探査機を失いました。このプロジェクトには、ロッキード・マーティン社と、NASA のジェット推進研究所(JPL)という、二つの異なるチームが関わっていました。
世界の多くの地域では、政府や組織がメートル法を使用しています。メートル法では、長さはメートル、重さはキログラム、液体はリットルで測定されます。一方、アメリカ合衆国政府は、長さをインチやフィート、重さをポンド、液体をガロンで測るヤード・ポンド法を使用しています。一部のアメリカ企業は、自主的にメートル法を採用していますが、こうした測定単位の混在が、問題の原因となりました。
ロッキード・マーティン社は探査機を製造し、JPL はミッションの管理を担当していました。ロッキード・マーティン社は、探査機のスラスター*に関するデータを、力の単位であるポンドで送信しました。メートル法の単位を想定していた JPL は、そのデータをそのまま計算に使用しました。その結果、軌道に誤りが生じました。探査機は火星の軌道に安全に入ることができず、惑星に近づきすぎて燃え尽きてしまいました。NASA は、約1億 2,500 万ドルの費用がかかったマーズ・クライメイト・オービターを失ったのです。
この失敗から何を学べるのか
指示を明確に伝える
他者と一緒に仕事をするとき、私たちはロボットを相手にしているわけではありません。ときには、相手の気分を害したくないという思いから、はっきりと話すことをためらってしまうこともあります。しかし、プロジェクトにおいて最も重要なのは、伝える内容が明確で正確であることです。明確に伝えることは、難しい言葉や複雑な文を使うことを意味しません。自分の指示が本当に伝えたい内容になっているかどうか、何度も確認することが大切です。
理解されているかを確認する
指示を出したあとには、相手に、どのように理解したかリピートしてもらうべきです。そうすることで、誤解は失敗が起こる前に明らかになります。たとえば、JPL のチームが、ロッキード・マーティン社の数値がメートル法の単位であるかどうかを確認していれば、この誤りはすぐに発見できたはずです。
作業を丁寧に確認する
最後に、すべての細部を一緒に見直すことが重要です。相手のチームがすべてを把握していると、決して思い込んではいけません。もし両方のチームが各段階を丁寧に確認していれば、最後にもう一度、誤りを修正する機会があったはずです。
私たち自身の生活や他者との仕事への教訓
一人で働く場合でも、他者と協力する場合でも、明確なコミュニケーション、中間段階での確認、そして最終的な見直しの機会を設けることは、私たちにとって有益です。ミスを早い段階で見つけることは、ほとんどの場合、最後に問題を修正するよりも簡単で、費用もかかりません。
当時 JPL の管理者であったトム・ギャビンは、次のように述べています。「私たちのシステムにおいて、チェックとバランスの仕組みに何か問題があった…」。この言葉は、コミュニケーションと検証が十分でなければ、どれほど賢い組織であっても失敗し得ることを、私たちに思い出させてくれます。
NASA の失敗から学ぶことで、私たちは働き方や協力の仕方を改善し、小さなミスが大きな問題へと発展するのを防ぐことができます。ときに、ロケット科学は、単純でありながら力強い教訓を教えてくれるのです。
*スラスター:宇宙空間で位置・姿勢制御や軌道修正を行うための小型ロケットエンジン
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「ヤード・ポンド法」「インペリアル(英)単位系」
長さ・重さ・体積などをヤード、ポンド、ガロンなどで表す単位体系を指します。現在は主にアメリカや一部の国で使われており、メートル法(metric system)と対比して説明されることが多い表現です。
The United States still uses the Imperial system for many everyday measurements.
「アメリカでは、日常的な多くの計量にヤード・ポンド法が今も使われています。」




