アーティストたちの緊急声明? 第68回グラミー賞受賞スピーチを英語で紹介!

2026年2月1日(現地時間)、第68回グラミー賞授賞式がアメリカ・ロサンゼルスで開催され、その年を象徴するアーティストや作品が世界中から集まりました。
グラミー賞は1959年に始まった音楽賞で、ポップス、ロック、ヒップホップ、ラテンなどジャンルを超えて評価される、音楽業界でもっとも権威あるアワードの一つとして知られています。

また、グラミー賞は受賞結果だけでなく、受賞者や司会者がステージ上で語るスピーチにも大きな注目が集まります。社会情勢や個人のバックグラウンドが率直な言葉で語られることも多く、毎年、その年の空気を映し出す場となっています。
2026年の授賞式では、開催国であるアメリカで現在進行中の移民政策問題や分断、それに対する愛や連帯といったテーマが、アーティストたちの言葉を通して強く印象づけられました。

今回は、話題を集めたスピーチを英語原文と和訳で紹介しながら、アーティストたちのパフォーマンスの背景に込められたメッセージを見ていきます。

オリヴィア・ディーン(Olivia Dean):最優秀新人賞

UK出身のシンガーソングライター。イギリス人の父とジャマイカ系ガイアナ人の母を持ち、多文化的な背景が音楽性にも色濃く反映されている。ネオ・ソウルやR&B、ジャズを軸にしたサウンドで注目を集め、デビューから約7年でSpotifyの月間リスナー数は2,500万人を突破。2025年のセカンドアルバム『The Art of Loving』と、収録曲「Man I need」が大ヒット。次世代を代表する存在として国際的な支持を広げている。

“I want to say I’m up here as a granddaughter of an immigrant. I wouldn’t be here… I’m a product of bravery, and I think those people deserve to be celebrated. We are nothing without each other.”

訳:
「私は移民の孫として、ここに立っています。そうでなければ、私はここにいなかったでしょう。私は勇気の産物です。そして、そうした人たちは称えられるべきだと思います。私たちは、お互いがいなければ何者でもありません。」

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deserve to 〜

〜されるに値する

ポイント

日本語では訳すのが難しいと言われる「deserve」。「〜の価値がある」「〜されて当然である」という意味です。誰かに“You deserve it!”と言えば、それは「あなたは頑張ってきたんだから、この扱い(ご褒美)は当然だよ!」という意味になります(反対に「悪いことをした報いを受ける」というニュアンスで使われることもあります)。

オリヴィアはここで、移民という難しい立場にある人々がアメリカでサバイブすることは、それ自体が賞賛されてしかるべきことなんだと涙ながらに発言し、会場もこの言葉に拍手を送っています。また、アメリカという国がそもそも「移民の国」であることを考えると、We are nothing without each other.(お互いがいなければ何者でもない)という言葉は、今現在「移民」とされる人だけでなく、「みんな」で分断を乗り越えよう、というポジティブなメッセージとして受け取られたのではないでしょうか。

バッド・バニー(Bad Bunny):年間最優秀アルバム賞、最優秀アーバン・ミュージック・アルバム賞、最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞

プエルトリコ出身のアーティスト。レゲトンやラテン・トラップを基盤にした音楽で世界的な支持を集め、スペイン語の楽曲のみで英語圏の音楽チャートを席巻してきた。ラテンミュージックの国際的な存在感を大きく高めた存在として知られ、Spotifyでは年間再生回数198億回を記録し、最も再生されたアーティストとなっている。2025年リリースした全曲スペイン語で歌うアルバム『Debí Tirar Mas Fotos』が大ヒット。年間最優秀アルバム賞を受賞した。

(最優秀アーバン・ミュージック・アルバム賞受賞時コメント)
“Before I say thanks to God, I’m going to say ICE out.
We’re not savage, we’re not animals, we’re not aliens. We are humans and we are Americans.
Also, I wanna say to people, I know it’s tough to know not to hate on these days and I was thinking sometimes, we get contaminados [contaminated], I don’t know how to say that in English.
The hate gets more powerful with more hate. The only thing that is more powerful than hate is love.”

訳:
「神に感謝を言う前に、まず言いたい。ICEは出ていけ。
私たちは野蛮人じゃない。動物でも、エイリアンでもない。私たちは人間で、アメリカ人だ。今の時代、憎まないでいることがどれほど難しいか、みんな分かっていると思う。ときどき、僕たちは “contaminados(スペイン語で:汚染されてしまう)”。英語でどう言うか分からないけど。憎しみは、憎しみが増えるほど強くなる。でも、憎しみより強いものが一つある。それは愛だ。」

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ICE OUT

ICEは出ていけ

ポイント

ICEとは、米移民税関捜査局(Immigration and Customs Enforcement)のことで、アメリカの非正規移民(undocumented immigrants)を取り締まる機関。2001年のアメリカ同時多発テロの後、多国籍組織のテロ・犯罪行為の調査のために設立されました。現在のトランプ政権下では職員を増員、非人道的とも言える移民への取り締まり行為が批判の的となっています。
2026年1月、ミネソタ州ミネアポリスでICE職員が市民に発砲、死亡させたことで、市民による抗議活動が拡大。「ICE OUT」はこの活動の合言葉で、ICEに「出ていけ(OUT)」と抗議する強いメッセージです。

プエルトリコ出身のバッドバニー。最新アルバムではサルサなど、オーセンティックなラテン音楽にアプローチして世界中で大ヒット。2026年2月8日に開催されるスーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスをすることが決定していて、もはやラテン界のみならず世界のスーパースターです。しかし、スペイン語で歌う彼がスーパーボウルでパフォーマンスをすることについてトランプ大統領は批判的な態度を取り、政府要人からも「スーパーボウルにはICEが出動する」という発言が飛び出すなど、バッドバニーとアメリカ政府の間には以前より緊張関係がありました。ちなみにプエルトリコは「米国自治連邦区」であり、プエルトリコの人々の国籍は「アメリカ」。今回の

We’re not savage, we’re not animals, we’re not aliens. We are humans and we are Americans.
(私たちは野蛮人じゃない。動物でも、エイリアンでもない。私たちは人間で、アメリカ人だ。)

という発言は、そうした背景を踏まえたものと思われます。また「アメリカ」と言うとき、「北米」だけでなく「ラテンアメリカ」を忘れないでほしいという意図もあったのかもしれません。一方、バッドバニーは移民政策への批判だけに終わらず、分断を乗り越えるための「愛」の大切さを伝えています。The only thing that is more powerful than hate is love.(憎しみより強いものは愛)は、まさに世界中で愛される楽曲を生み出してきたアーティストだからこそ言える言葉ですね。

ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish):年間最優秀楽曲賞

カリフォルニア州ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター。2019年に発表したデビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、世界18の国と地域で1位を獲得し、同年に世界で最も売れたデビュー作となった。代表曲「bad guy」は全米シングル・チャートで1位を記録し、2000年以降生まれのアーティストとして初の快挙を達成している。2024年に3枚目のアルバム『Hit Me Hard and Soft』をリリース。収録曲「Wildflower」が年間最優秀楽曲賞を受賞。

“No one is illegal on stolen land.”
“Yeah, it’s just really hard to know what to say and what to do right now. I feel really hopeful in this room, and I feel like we need to just keep fighting and speaking up and protesting. Our voices really do matter; people do matter.”

訳:
「奪われた土地の上に、不法な人間なんていない。」
「正直、今は何を言えばいいのか、何をすればいいのか分からなくて本当に難しい。でも、この会場にいると希望を感じます。私たちは、闘い続け、声を上げ、抗議し続けなければいけないと思う。私たちの声には意味があるし、人の存在には確かな価値があるから。」

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No one is illegal

誰も不法(違法)でない

ポイント

ここでの「盗まれた土地」(stolen land)とは、アメリカのことを指していると思われます。もともと先住民(ネイティブ・アメリカン)が住んでいた場所にヨーロッパからの入植者たちが戦争や不平等な条約などを通じて自分たちの土地を広げていったという歴史から、アメリカを「盗まれた」土地であると考え、その土地で誰か(移民)を「違法」と判断することの矛盾をビリーは伝えようとしています。

実は上記の発言の後にも、放送禁止用語(F-word)を交えてICEを批判したビリー・アイリッシュ。今回の発言は言葉の強さも相まって賛否両論を巻き起こしているようです。ちなみにスピーチしたビリーとその兄のフィニアスの胸元には白いバッジが。このバッジには前述のバッドバニーの発言にもあった「ICE OUT」という文字が書かれています。この日、他にもジャスティン&ヘイリー・ビーバー夫妻、ジョニ・ミッチェル、ケラーニ、エイミー・アレンなどがこのバッジを身に付けていました。

まとめ

前述のミネアポリスの事件から日が浅いこともあり、今回のグラミー賞でのスピーチは現状のアメリカの移民政策に対しての抗議や、分断を乗り越えて連帯を促すような発言が続出しました。また、アーティストだけでなく、司会のトレバー・ノア(南アフリカ出身のコメディアン)はトランプ大統領を皮肉ったジョークを連発。報道によればトランプ大統領は「彼を訴える」と激怒しているそうです。

国の成り立ちから考えれば当然のことですが、アメリカのエンタメ業界には様々なルーツを持つ表現者たちがいます。彼らはそのルーツや、自分の「物語」を芸術に落とし込みます。アーティストが「政治的」であること自体はアメリカでは珍しくありませんが、今回、これほどまでに強い言葉が続いたのは、一連の移民政策が自分たちのルーツやアイデンティティに直結する問題だったからかもしれません。彼らの「緊急声明」を皆さんはどのように受け止めましたか?

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