衛生と植民地主義の真実

英文記事執筆:まりか / 翻訳:POLYGLOTS magazine編集部
写真:優れた排水システムが整備されていたというモヘンジョダロの遺跡
植民地主義がもたらした影響
「発展」について語るとき、ヨーロッパや東アジアの国々は、「文明化された」「先進的な」社会の例として挙げられることがよくあります。しかし、西洋によるアフリカやアジアへの植民地支配が広がる以前、これらの地域の社会では、当時のヨーロッパの多くの地域よりも高度な仕組みがすでに発達していました。その一例が、高度な排水・下水システムです。
植民地支配を行った国々は、政治や経済だけでなく、科学的知識を含むあらゆる分野を支配しました。そして、それまで存在していた制度や政策を置き換え、自分たちの制度のほうがより科学的で道徳的であると正当化しました。
しかし、歴史的な記録を見ると、こうした正当化は、ヨーロッパの商業的利益を拡大するために植民地社会を作り替える目的でも用いられていたことが分かります。例えば、植民地時代のインド・パンジャーブ地方では、鉄道網の拡大によって森林への負担が増し、環境や人々の暮らしに深刻な影響が及びました。また、河川沿いで行われた工事は自然の排水の流れを変え、一部の地域では洪水が起こりやすくなりました。
「発展」の名のもとに、ヨーロッパの植民地支配国は、アフリカやアジアの自治を損なっていったのです。
西アフリカと南アジアの高度な衛生システム
インダス文明(紀元前2600〜1900年)には、高度な給排水設備や下水・排水システムがありました。現在のパキスタン・シンド州に位置する古代インダス文明最大の都市モヘンジョダロには、非常に優れた排水システムが整備されていました。
家の壁には縦方向の排水管が設けられ、それは通りに面した排水口へとつながっており、家庭から出る排水を流していました。町中の道路には、焼きレンガを泥のモルタルでつなぎ合わせて作られた排水路が整備されていました。
また、複雑な仕組みによって、大きなごみは途中で集められ、小さなものだけが流れるようになっており、排水路が詰まるのを防いでいました。これらの排水路はレンガの板で覆われ、地下に設置されていたため、悪臭を防ぐことができました。また、定期的に水を流して洗浄されていました。
この排水システムによって、水は常に流れ続け、汚水がたまったり、下水があふれたりすることはありませんでした。これは、当時の人々が衛生や清潔さを重視していたこと、そして高度な都市計画を行っていたことを示しています。また、工学に関する高度な知識を持っていたことも分かります。
1817年、イギリスの探検家トーマス・ボウディッチは、外交使節として現在のガーナにあったアシャンティ王国(1701〜1901年)の首都クマシを訪れました。そこで彼は、この町の家々に高度な配管設備を備えた室内トイレがあることを知り、驚きました。
これらのトイレは大量の熱湯で流され、排泄物を取り除くだけでなく、病気の広がりも抑えていました。人々は配管や排水設備を使いこなし、高い清潔さと衛生状態を保つ高度なシステムを築いていました。また、病気を予防するための豊富な知識も持っていました。
一方、当時のイギリスでは、便槽やおまるがトイレとして使われていました。専用の浴室やトイレを備えた家は限られており、1784年になっても、大きな邸宅に住む人々が食卓のそばに置かれたおまるで用を足していたという記録が残っています。
便槽の中には「ナイトマン」と呼ばれる人々がくみ取るものもありましたが、地下の汚物槽(cesspool)につながっているものや、そのままテムズ川へ流されるものもありました。
モヘンジョダロのように水が流れ続ける排水システムとは異なり、イギリスでは水がよどみ、強い悪臭や水質汚染が発生していました。
1858年には、川の水位が低下したことに加え、水洗トイレの普及によって汚水が川岸まで押し寄せました。その悪臭はあまりにもひどく耐え難かったため、「大悪臭(Great Stink)」として知られるようになりました。
当時のイギリスでは、水を介して病気が広がることがまだ理解されておらず、ロンドンの人々はテムズ川の水を飲み水や生活用水として使い続けていました。その結果、コレラや腸チフスなどの病気が市内に広がりました。
高度な都市計画や下水システムの知識がなかった当時のイギリスでは、人々は衛生に関する理解が十分ではなかったようです。
植民地主義が残した影響
1874年の戦争で、イギリスはガーナの多くの地域を焼き払い、インフラや都市機能も破壊しました。また、前述のように、イギリスによる植民地支配はパンジャーブ地方の自然環境にも大きな影響を及ぼし、現地の人々に深刻な被害をもたらしました。
アフリカや南アジアで植民地支配国が行ったこうした行為は、しばしば見過ごされます。その一方で、現地の人々は「衛生観念が低い」と批判されることがあります。
しかし実際には、衛生という点では、彼らは植民地支配者たちよりもはるかに発達した社会を築いていました。
西洋諸国は、互いの知識を交換して共に発展するのではなく、「発展」や「進歩」という名目のもと、多くの国々を武力で植民地化しました。
そして長年にわたる植民地支配と資源の収奪を経た今、それらの国々は「遅れている」「不衛生だ」とレッテルを貼られています。
これらの地域の衛生や公衆衛生について議論するのであれば、植民地主義や占領がもたらした、長く続く深刻な影響も考慮しなければなりません。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「排水・下水システム」
「drainage」は雨水や生活排水を流すための排水設備、「sewage」は生活排水や汚水そのもの、またはそれを処理する下水を指します。「drainage and sewage systems」と並べることで、都市の排水・下水インフラ全体を表す表現になります。
The city invested in new drainage and sewage systems to reduce flooding.
「その都市は、洪水を減らすために新しい排水・下水システムを整備した。」




