若者とデモ:何を訴え、何を成し遂げてきたのか

2026年秋、フランス各地で高校生たちによる抗議活動が広がっています。背景にあるのは、教員不足や教室の過密化、老朽化した学校施設など、教育環境に対する不満です。9月にパリ近郊で始まった運動は次第に規模を拡大し、10月6日には教師や保護者らも加わり、デモ参加人数は全国で26万人以上、さらに10日ほど経った10月17日にはデモが始まってから最大規模の55万人が参加したと報じられています。
当初、高校生たちが授業を休んで学校の前に集まり、日々を過ごす学校の環境の改善を訴えていたこのデモですが、運動が拡大するなかで警察との衝突も発生し、逮捕者や負傷者が出る事態となりました。さらに、高校生たちの訴えに賛同する大学生や教師、保護者、労働組合なども加わり、抗議活動は全国に広がっています。一方で、一部の抗議活動では破壊行為や暴力行為に及ぶ人々も現れ、商店の襲撃や略奪、車両への放火などが発生したとメディアは伝えています。
略奪や暴力そのものが目的化した行為は決して正当化されるべきではありませんが、ここまでの事態に発展した原点には、市民の訴えに応答してこなかったという、政府の「不作為」があったことも認めざるを得ません。今後、フランスはこの動きにどのように対応していくのか、国際社会の注目が集まっています。
こうした若者たちによる抗議運動は、決してフランスだけの出来事ではありません。この10年ほどを振り返ると、世界各地で高校生や大学生が社会問題をきっかけに立ち上がり、ときには大きな社会運動へと発展してきました。この記事ではそのいくつかを見ていきます。
学校から始まった、世界を変えようとする運動
2018年、アメリカでは高校生たちが大規模な抗議運動を起こしました。
2月14日、フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が発生し、生徒や教職員17人が犠牲になりました。事件を生き延びた生徒たちは、同じ悲劇を繰り返さないために銃規制の強化を訴え、「March For Our Lives(私たちの命のための行進)」を組織しました。翌3月には首都ワシントンをはじめ、全米各地で大規模なデモが開かれました。
こうしたアメリカの高校生たちの行動は、海を越え、別の社会問題に取り組む若者にも影響を与えました。
同じ年の8月、スウェーデンで当時15歳だったグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動への対策を求めて国会前で学校ストライキを始めました。グレタさんは、フロリダ州の高校生たちが授業を休んで銃規制を訴えたことに着想を得て、気候変動についても同じように声を上げようと考えたのです。
やがて賛同する若者が増え、毎週金曜日に学校を休んで気候変動対策を訴える「Fridays for Future(未来のための金曜日)」という運動に発展しました。SNSなどを通じて各国に広がり、世界中の学生たちがデモに参加するようになりました。
大学生による抗議も各地で起きています。2024年4月には、ニューヨークのコロンビア大学で、ガザでの戦争に抗議する学生たちがキャンパス内にテントを設置しました。学生たちは大学に対し、イスラエルに関連する企業などからの投資撤退を要求しました。大学側が警察に撤去を要請し、多数の学生が逮捕されたことも注目を集め、同様の抗議活動は全米の大学へと広がりました。
一方、キャンパスでは反ユダヤ主義的な言動への懸念や、学生の安全、表現の自由をめぐる議論も起きました。抗議運動の広がりとともに、異なる立場の人々の間で対立も生まれていました。
アジアでも、若者たちが街頭へ
若者たちが重要な役割を担い、大きな政治的変化につながった抗議運動は、アジアでも起きています。
2024年のバングラデシュでは、学生たちによる抗議が政権の退陣につながりました。
きっかけは、公務員採用における優遇枠制度でした。2018年に廃止された制度について、2024年6月に裁判所が廃止を無効とする判断を示したことで、学生たちの反発が強まりました。この制度には、独立戦争に参加した人々の子孫などに一定の採用枠を割り当てる仕組みがあり、学生たちは採用の公平性を求めて抗議を始めました。
その後、治安当局などによる弾圧で多数の死者が出ると、政府への反発が強まり、抗議は全国規模の反政府運動へと発展しました。8月5日にはシェイク・ハシナ首相が辞任し、国外へ脱出しました。
翌2025年9月には、ネパールでも若者たちによる大規模な抗議運動が起きました。
発端となったのは、政府によるFacebookやYouTubeなどのSNSの利用制限です。しかし、その背景には、政治家の汚職や特権、若者の経済的な機会の不足に対する不満もありました。
「Z世代の抗議」と呼ばれた運動は首都カトマンズなどで広がり、治安当局との衝突によって多数の死傷者が出ました。抗議が激化するなか、9月9日にはK・P・シャルマ・オリ首相が辞任しました。
これらの例では、学生や若者が抗議の中心的な役割を担い、その動きが首相の退陣につながりました。ただし、いずれも若者だけによって実現した政治変革ではなく、さまざまな社会的不満や政府の対応などが重なった結果でした。
なぜ若者は、デモに参加するのか
これらの運動を見渡すと、若者たちが声を上げる理由は一つではないことがわかります。
教育環境、銃暴力、気候変動、就職機会、政治家の汚職など、抗議の対象はさまざまです。しかし、いずれも参加者自身や周囲の人々の生活、あるいは将来に関わる問題であるという共通点があります。
社会問題が自分たちの生活と深く関わっているという当事者意識は、行動を起こすきっかけの一つと考えられます。
では、共通の不満や問題意識を持つ若者たちは、どのようにして連帯するのでしょうか。
現代の社会運動では、SNSも重要な役割を果たしています。情報を広く伝えるだけでなく、同じ問題意識を持つ人々が互いの存在を知り、参加を呼びかけることができるからです。
2020年に発表されたオンライン上の社会運動に関する研究のレビューでも、SNS上の活動と実際の抗議行動には関連があり、オンラインでの呼びかけが街頭での参加につながる場合があると指摘されています。
また、若者たちを実際の行動へと向かわせる要因として、もう一つ注目したい概念が「政治的効力感」です。
これは、自分自身や集団の行動によって、政治や社会に影響を与えられると感じることを指します。特に、仲間と行動することで変化を起こせるという感覚は、「集合的効力感」と呼ばれます。
2008年に発表された社会運動に関する複数の研究を統合した分析では、不公正への認識、集団への帰属意識、そして集団で行動することの有効性に対する認識が、いずれも抗議行動への参加と関係していることが示されました。
では、こうした効力感は、どのように育まれるのでしょうか。
ドイツで授業料に反対する学生運動を対象に行われた研究では、抗議活動の成功に対する誇りが、効力感の高まりを通じて、その後の参加意欲と関係することが示されました。一方、失敗への怒りも、次の行動への意欲につながる場合があると報告されています。
また、スペインで2018年に行われた抗議運動の参加者44人へのインタビューを分析した研究では、ほかの参加者の行動を目にしたり、集団で何かを達成したりする経験が、政治的効力感を育てる可能性が指摘されています。
つまり、効力感は必ずしもデモに参加する前から備わっているものではなく、参加経験を通して変化することもあるのです。
デモには、要求が実現する場合もあれば、政府や組織が応じない場合もあります。抗議を通して問題への関心が高まる一方で、社会の対立が深まることもあり、参加者が弾圧の危険にさらされる場合もあります。
それでも、世界各地で若者たちは、共通の問題意識を持つ人々とともに街頭に立ってきました。
2018年のアメリカの高校生たちによる抗議が、スウェーデンのグレタさんの行動に影響を与えたように、ある場所で始まった運動が、別の場所で新たな行動を生み出すこともあります。
デモは政治や社会に変化を求める手段であると同時に、参加する人々が連帯を経験し、自分たちの行動の可能性を知る場にもなり得ます。そうした経験の積み重ねが、次の世代の政治参加を支える力になっていくのかもしれません。
emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ
「街頭に繰り出す」「抗議の声を上げる」「デモに参加する」
「take to the streets」は、抗議やデモなどのために人々が街頭に出て行動することを表す表現です。単に意見を述べるだけでなく、実際に街頭に集まって声を上げるというニュアンスがあり、社会問題や政治的な抗議活動の文脈でよく使われます。
Thousands of people took to the streets to demand change.
「何千人もの人々が、変化を求めて抗議の声を上げた。」
menu_book参考文献
- https://www.theguardian.com/world/2019/mar/11/greta-thunberg-schoolgirl-climate-change-warrior-some-people-can-let-things-go-i-cant
- https://www.ohchr.org/sites/default/files/2024-08/OHCHR-Preliminary-Analysis-of-Recent-Protests-and-Unrest-in-Bangladesh-16082024_2.pdf
- https://apnews.com/article/89cf500969536cf2a35c3fb884cfa620
- https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2020.03.003
- https://doi.org/10.1037/0033-2909.134.4.504
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22694314/
- https://doi.org/10.1111/socf.70009
- https://www.justice.gouv.fr/actualites/espace-presse/bilan-judiciaire-violences-urbaines-marge-du-mouvement-lyceen-0




