平野と伊藤の「よけいな話」#3 伊藤さん、結婚式で完全試合達成(恋の洞窟編 その1)(2/2)

イラスト:スミアヤカ

「ズッキュン」ではなく「じわじわ」

伊藤

結婚式なんてはたから見ればくだらないものって私もちょっと思ってたところもあったし、私と出会う前の夫はより思ってたと思うんです。
夫とはマッチングアプリで知り合って、その時に夫のプロフィールに、「姉の結婚式を見て、なんか悪くないなと思って始めました」って書いてあって、「そんな自己紹介じゃ誰も引っかかんないぞ」って思いながら「いいね」しました。 

平野

二人は「じわじわ」(仲が深まった)だからね。 

伊藤

そう、「じわじわ」なんですよ。 「ズッキュン」とかではなくて。「ズッキュン」はうまくいかなかったな。 
私だけ「わー」ってなるっていうパターンを何回か繰り返して、今の人に会って。

最初はこの人何考えてるかわかんないし、話もそんな盛り上がんないなって思って、こんなんで付き合っていけるのかな、なんて思ってたんですけど。

編集部

お相手の方は最初、伊藤さんのことをどう思っていたんでしょうか。

伊藤

付き合って一年ちょっとぐらい経った時に、「最初私のことそんなに好きじゃなかったでしょ?」って聞いたら、「うん!」って言ってました。
だからお互いに一週間に一回ぐらいしか連絡取らないみたいな。二週間に一回ぐらい義務的に会うみたいな感じでした。 だから今、毎日「仲良し」を更新してます。 

編集部

自分は伊藤さんより世代が上で、マッチングアプリがなかったので、アプリを使った出会いがあまりわかっていないんです。

伊藤

むしろ私は高校からリアルの場で知り合った人間と付き合ったことがなかった。 
アプリのない時代はSNSで知り合ったりしてました。いままで、全部そうです。 

編集部

コミュニティ内の友達から、みたいなのはなかった? 

伊藤

なかったです。それが逆にわかんないです。「友達から」はできない、できない。「だって友達だもん」って思っちゃう。 

編集部

SNSやアプリでの出会いの特徴ってなんでしょうか。

伊藤

うーん、会う前にある程度の「好き」はもう約束されてるというか。 

編集部

マッチした段階で。 

伊藤

そうですね。顔の写真見て、やりとりもしてるし。

ある程度好きな状態で、むしろかなり期待の高まった状態で会って、「あ、実物こんな感じか」ってなって、そこからまた調整していくみたいな。 

編集部

調整。 

伊藤

そう、気持ちを調整していくっていう感じかな。 

(平野さん)どうですか?アプリとかやったことあります? 

平野

僕はやったことないですけど。僕、友達の年齢の幅がすごく広いので、20代から80代までいるから、その中でマッチングアプリの経験者はたくさんいますね。 
40代とかでもマッチングアプリやってる人は全然います。で、それで結婚した人もいます。

だから、自分は直接やってないけど、黎明期からなんとなく知ってる。あんまり人には言えないみたいな感じだった時期から、だんだんと言うようになってきて、それで今はもう当たり前、みたいな。それに伴って 自分の中での認識も更新されていくっていうのかな。 なんか最初のうちは「大丈夫なのか?」と思っていたものが。 

伊藤

「出会い系」ってやつですね。 

平野

そう言われてた頃ね。 段々となんか「まあそっか」っていう感じで。

それでいうと、最近すっかり忘れていたけれども、昔ね、ネットで物を買うってとても不安なことだったと思うんです。 ネットショッピングって。服とか、使うもの、色味とか質感とかわからないのにネットで買うなんてちょっと考えられないって思ってたと思うんだけど、今はそういう抵抗はないですよね。
物によってはこれはネットで買わないなとか、まあ実店舗行ってみてからにしようとかっていうのはあるにしても、「ネットで買うなんて」みたいな抵抗はもう全然ないから、そういう感じでやっぱり更新されていきますよね、感覚は。

伊藤

だって「トイザらス」が撤退するんですよ!「トイザらス」なんてあの空間が大事なのに!
実店舗で「これかな、これかな」って迷ったりとか、親が連れてってくれたものの、買ってくれるかはわからないみたいな、その、この不確かさみたいな時間はもう今の子たちには不要なのかな。

恋愛と関係あるかわかんないですけど、そういう「どっちかな」みたいなのを、私自身も恋愛においてあんまり耐えられないかもしれないですね。「はい、好きだよね、あなた好きだからここに来たんですよね。」って。 

平野

何かの係の人? 

伊藤

「好きな方、こちらです!」。 「はい、集まってくれてありがとうございます。今は、あなたが私のことを好きなのはもうわかっているので、私は、より私を好きになってもらえる自分を今から出しますので」っていうのがあります。 

平野

合理的というか。 

伊藤

うん、合理的な。

恋愛の「入り口」と、その先の「洞窟」

平野

でも最近、たくさん人の話を聞いてて改めて思うのはね、マッチングアプリでもさ、あるところからは変わらないんじゃないかって思ってる。 つまり「入り口」が違うだけかなって感じがする。
人間同士って、結局恋愛ということになると確実に違う面が出るじゃないですか。 恋愛としての関わり方というのは、仕事はもちろん、お友達とか家族とかともちょっと違う。
その人の、恋愛する時にしか出てこない部分って絶対あるでしょ。 いいところも悪いところも、どっちでもないところも。で、それがだんだん露わになってきて、そこの部分でお互いが関わり合っていって、うまくいくかどうかじゃないですか。 だから、元々実生活で関わりがあって、だんだん知り合った人だからうまくいくっていうもんでもないと思うんですよね。
よく知ってる人だと思ってたら、恋愛関係になってみたら「こんな人だった」みたいなことが、誰しも大なり小なり経験はあると思うし。 

だから実は恋愛に関しては本当に「入り口」しか違わないのではって最近思うようになった。どっちにしろ人を知るってとても難しいことだから。 

伊藤

そうですね。 

平野

ある段階から先はもう「入り口」は関係なくなっている。 

編集部

マッチングアプリなら、「ある程度恋愛に発展しますよ」という「入り口」から入るだけということですね。

伊藤

うん、そう。前提が。お付き合いするかしないかの話になります。 

友達を作るだけみたいな目的の人もいるらしいですけど、Tinderとか。
でも私の中では「友達付き合いの自分」と、「恋愛の自分」というのは明確に分かれているので。
だから友達から始めたとしても、途中からそっち(恋愛)の「洞窟」に行かなきゃいけないじゃないですか。 それはできるかもしれないけど、それで失敗した時に、「この人、生かしちゃおけん」って。 

編集部

またその発言が。(※伊藤さんインタビュー参照 https://mag.polyglots.net/3822/awa-ito-interview )

伊藤

「消えてもらわないと」って、なっちゃいませんか?

平野

なっちゃいませんよ? 

伊藤

え、ならないんですか?
例えばマッチングアプリとか関係なく、普通に職場とかで知り合って恋愛関係になりました。別れました。「友達に戻ります」ってできます? 

平野

あー。

伊藤

だってこの洞窟の奥知ってるのに、知らない顔してるみたいな。 

平野

えーと、まずみんなが洞窟に行ってるわけではない。 

伊藤

そうなんですか?

平野

そんなにね、光のない方に行っているわけでもない。 
今の話だと洞窟に入ったが最後、二人でいる間はずっと洞窟で隔離されて過ごしてて・・・。

伊藤

そうです。出ちゃダメ。 

平野

で、どっちかが出てきた時には別れていて、しかもどっちかは死んでるんですよ。 地獄のような恋愛観なんだけど。  

伊藤

「はい?最初から一人でしたけど?」みたいな。 

平野

跡形もなく。 

伊藤

そうですね。そうか、みんなそんな奥まで探検しないんだ。 

平野

で、しかも何が面白いってさ、あなた、別れた後気まずいとか、友達に戻れないんじゃないかっていうことを気にするような、カタギの、安定した人間関係で構築されたコミュニティで生きてないでしょ?

伊藤

確かにそうですね。 
そんなことがあったら、そのコミュニティから「飛べ」ばいいだけの話です。私の場合。

編集部

それはあれですか、別れた後に、迷惑をかけられるのがいや、みたいなことですか?

伊藤

そういうことじゃないです。単純に友達に戻れないですよね。 だって、こんな、こんな(親密な様)してたのに。 無理じゃないですか。別れたら「スン」って。
気まずすぎる。 相手に対して異様に辛辣になってしまう。 

編集部

世代や地域性もあるかもしれないんですが、私は結構「ビバリーヒルズ」的な恋愛模様を見てきましたけどね。

伊藤

ビバリーヒルズ?

平野

昔『ビバリーヒルズ青春白書』っていうドラマがあってね。 

編集部

同じコミュニティ内で、この人とこの人がくっついて別れて、今度はこっちとくっついて、みたいな。そういうことはわりとあったように思います。だから、「消し」たり「飛ん」だりとかはそんなになかったような。

伊藤

消したり飛んだり。 

平野

消したり飛んだりね。  
うーん、まあだから恋愛関係をどう規定するかでね。 なんかそのイメージが、それこそ本当に「洞窟」だったら、本当に隔絶されたところで極めて私的な姿態をお互いに晒しているんで、まあ追い詰められていくよね。

だけど、みんなが「洞窟」に行くわけじゃないから。わりと開かれた土地とか、空気に触れた状態で交際してる人も。 

伊藤

オープンなお付き合いで。 

平野

だから「内」と「外」の感覚がすごくきついと、この「内」を知り合った以上は絶対ってのがあるだろうし、もうちょっと手前っていうか、それなりに風通しいいよっていうところで交際してる人もいると思うわけ。 

え、全然納得してない顔してるじゃん。 

伊藤

いや、違うんですよ。 その、この記事を義理のお母さんとかが見るかもしれないから、ちょっと弁解しておきたいんですけど。なんかものすごくスケベなことをしてるとかそういうことじゃないんですよ。
違うんですよ、本当に。 本当に違うんです。なんか本当に至って仲良しなだけなんですけど。 なんかそれだけでも結構。 

やっぱなんかその・・・、何を隠そうとしているんだろう、私は。
なんか恋・・・、恋してること自体バレたくないかもしれないです。誰かに。 

平野

あ、それでいうと、自分のパートナーを人に紹介するかしないかとかもありますよね。どのぐらい会わせるか会せないかとか、知り合って欲しいか欲しくないかみたいなとこね。 

伊藤

ああ、でもそれは違うな。恋してるのがバレたくないんじゃないんだな、そしたら。 

平野

あっ腕組んじゃった。

伊藤

何を隠してるんだろう、私。 
でもキャラクターを脱いでるんだと思います。 

編集部

パートナーに見せる姿はだいぶキャラクターが違うんですね。 

伊藤

二人の間の秘密じゃなくて、単純に私の気持ちの問題ですよね。 

・・・なんか、私の独白みたいな感じになっちゃってる。 


結婚式の振り返りから始まった今回の「よけいな話」は、いつの間にか恋愛の「洞窟」へ。出会い方が変わっても、人を知ることの難しさは変わらないのかもしれませんね。

次回も引き続き、テーマは「結婚/恋愛」。今度は「シチュエーションシップ」をはじめ、現代の恋愛や人間関係につけられる“名前”について、お二人があれこれ物申す…?

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平野暁人(ひらの・あきひと) 
翻訳家(日仏伊)。戯曲を中心に小説、精神分析など幅広く手掛ける傍ら、舞台芸術専門の通訳者、ならびにパフォーマーとして国内外で活動。訳書に『「ひとりではいられない」症候群』(講談社)、『隣人ヒトラー』(岩波書店)、『純粋な人間たち』(英治出版)など。

伊藤亜和(いとう・あわ)
1996年横浜市生まれ。文筆家。学習院大学文学部フランス語圏文化学科卒業。
noteに掲載したエッセイ「パパと私」がX(旧Twitter)でジェーン・スー氏、糸井重里氏らの目に留まり、注目を集める。著書に『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)、『魔女になりたい』(文藝春秋)など。

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