BJ Fox流「語学&コメディのススメ」(1/2)
TOKYO COMEDY BARという<多文化空間>にある、笑いと言葉のエッセンス

進行・構成:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Coco Taniya
「ポリマグ」今回の特集は、スタンダップコメディアンBJ Foxさんのインタビューをお届けします。
マイク一本でステージに立ち、身の回りの「あるある」や失敗談を面白おかしく話したり、社会の常識に疑問を投げかけたり、時に政治問題を過激に皮肉ったりと、コメディアンの「話術」のみでお客さんを笑わせる「スタンダップコメディ」。
元々アメリカやイギリスで発展してきたカルチャーですが、今、日本でもこのスタイルの笑いが注目を集めています。その中心地とも言えるのが、2022年にBJさんを中心とするメンバーで立ち上げた、日本で唯一の「日本語・英語でスタンダップコメディを楽しめるクラブ」である「TOKYO COMEDY BAR」(東京渋谷)。BJさんを筆頭に、イギリス、アメリカ、中国、日本、トルコなど多様なバックグラウンドを持つコメディアンたちが、夜な夜な英語と日本語で会場を沸かせています。また、「英語で楽しめる東京の名所」として、インバウンド観光客にも大人気のスポットでもあります。
「コメディを好きな人は言葉が好きな人」と言うBJさん。ご自身の「日本語学習」のエピソードや、多文化空間であるTOKYO COMEDY BARを「英語学習の場」として活用する方法、また、今でも働きながらコメディアンとして活動するBJさんの「仕事論」などについてたっぷり語ってくれました。
「楽しくポジティブに英語を学ぶ」ためのヒントが満載のインタビューです!
日本語との出会い
—— BJさんが立ち上げたTOKYO COMEDY BARは、英語で行うコメディのインバウンド需要もあり、連日大盛況と伺っています。また、最近ではBJさんは日本各地でスタンダップのツアーも頻繁に行われるなど、大活躍ですね。もともとはゲーム関連のお仕事をされていたというBJさんが、日本語をマスターして、今このように活躍されるようになった経緯を教えていただけますか。
まずは日本語をマスターしてるとは全然思ってなくて、まだ勉強しないといけないと思いますけど・・・高校の時に交換留学で静岡県の浜松に3週間ホームステイしました。1999年。ちょうど『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開されていて、なぜか劇場で3回ぐらい見た思い出があります(笑)。
その後イギリスの大学を卒業してから、2年間JET*というプログラムに参加して、また浜松に行きました。
その後イギリスに戻って、ゲーム会社「ポケモン」(The Pokémon Company)のロンドンの支社に3年間ほどいて、そこから別のゲームメーカー「ロックスター・ゲームス」社(Rockstar Games。ゲームシリーズ「グランド・セフト・オート」などで有名)に転職したんです。
*JET(Japan Exchange and Teaching Programme)・・・外国語青年招致事業。海外の若者を招致して、地域の国際化をはかることを目的とする制度。地方自治体、教育委員会及び全国の小・中学校や高等学校で国際交流の業務と外国語教育に携わる。
—— ロックスター社でのお仕事の内容はどんなものでしたか?
僕は営業とマーケティングをやってました。マーケティングといってもキャッチコピーを考える、とかではなく、そのゲームを現地でうまく流通させる仕事で、例えば PlayStationのライセンスを受けたり、現地の規制当局とのやりとりをしたり。流通に関する統括的なマネジメントをやっていました。
それからアジア全体の統括をすることになってシンガポールに5年間駐在することになります。そこでコメディに出会いました。僕にはコミックスのライター(原作者)になりたいという夢があって、イギリスでは出版もして少し実績もありました。でも、コミックスは書いてから届くまで、1年かかる場合もある。シンガポールにいたときに、随分前に書いた本が出版されて届いたんですが、そのとき30歳になったばかりで「このペースだと自分のクリエイティビティも死んでいくのではないか・・・」と考えました。その翌日、たまたまコメディクラブのオープンマイク*に行って・・・「これをやろう!」となった(笑)。本は書いて編集して出版されるまでのプロセスがすごく長いんだけど、 コメディのいいところは、電車の中で面白いネタを考えて、それをすぐ会場で試す。このフィードバックループの短さが好き。
シンガポールでの転勤生活が終わり、ロンドンに戻って仕事しながら副業的にコメディに挑戦しようと思っていたんだけど、ちょうどそのタイミングでロックスターが日本オフィスを立ち上げることになり、そのサポートのために日本に来ました。それが11年前。それからずっと日本にいる感じです。
*オープンマイク・・・来場者が誰でも短時間でコメディを披露できる機会。
—— 日本での仕事の前にすでに日本語には不自由はしない状態だったのですよね。
はい。僕はわりと早い段階で日本語能力試験の1級(現在の「N1」にあたる)を取ったんです。
—— すごい。
でも日本語能力試験はスピーキングの試験がないので、あまり流暢に喋れるわけではなかったんです。だからロックスターの面接では「日本語ペラペラ」とか適当に言って(笑)。そうしたら「ペラペラなら日本との関係を全部お願いします」みたいに言われて、日本でのゲーム流通に関わるようになりました。『グランド・セフト・オートⅣ』の日本発売のために2ヶ月ぐらい滞在したときは、できるだけ通訳に頼らず仕事をするために、一生懸命勉強しました。現地とのやりとりや出張などを通じて、日本語はどんどんパワーアップしていったと思います。
—— 日本語の効果的な学習方法はありましたか?
僕は漢字から入りました。
—— 漢字からですか。
僕は、やさしいところから少しずつ、ではなく、とりあえずでかいことをやっちゃって、細かいことは後からついてくる、みたいなやり方をするんです。漢字は難しいと思うので最初にそこから始めれば、あとはもう、ひらがなが逆に簡単に感じられるだろうと。
—— 最初から難しい方にいくんですね。
はい。日本語能力試験もいきなり1級で、一発合格です。
—— すごい!
でも、ゴールは資格取得ではなく語学の習得だと思っていたので、1級に落ちてもまた勉強すればいいと思っていました。だから逆に一発合格したのはよくなかったかも。その後の勉強の熱が下がってしまった(笑)。あと、「喋り」のテストではないので・・・。
—— TOKYO COMEDY BARに出演しているバハさん(トルコ出身のコメディアン)のネタでも「日本語能力試験にはスピーキングのテストがない」というのがありますね。漢字を読んだり書いたり、テキストベースで学習していると、「読み書き」と「喋り」の習熟度が分かれてきてしまう感覚はありましたか。
よく思うんですが、僕はパックン*みたいに、テレビに出られない。
*パックン・・・パトリック・ハーラン。アメリカ合衆国コロラド州出身のコメディアン。お笑いコンビ「パックンマックン」での活動のほか、テレビの報道番組のコメンテーターとしても活躍。最近はTOKYO COMEDY BARにも出演中。
—— なぜですか?
僕の日本語の発音がダメだから。 言ってる言葉が難しいとか、面白くて奥深いというのはあるんですけど、流暢さが全くなく、自然に喋れない。多分限界があると思います。たまに動画のコメント欄に、「わざとそういう日本語を喋ってるでしょ」と書かれたりしますが、全然意識はしていなくて。
完全な流暢さ、「最後の20%」を手に入れるには相当勉強しないといけないと思うんですが、それにあまりメリットを感じていないんです。今、普通にこのままの日本語で笑いを取れるようになっていることを考えると、もう逆に日本人らしい日本語を喋らない方がいいんじゃないかと。
僕の勝手な意見ですが、ビジネスシーンでもそうです。単純に自分の言いたいことを表現すればよくて、日本人らしく曖昧な「暗黙の了解」に任せたり、敬語に気を付けすぎたりすることはよくないと思います。 僕のいるゲーム業界でも、うまくいっている外国人はみんな僕のような日本語を喋る。
—— そうなんですね。
今の流れ的には「日本人らしい日本語を喋りましょう」という考え方が強いと思うんですが、僕はやらなくてもいいと思う。
僕からすると「笑い」は「裏切り」と「驚き」。「真面目な設定にバカバカしい人が入る」パターンか、「バカバカしい設定に真面目な人が入る」パターン。志村けんさんとか、Mr. ビーンとか、そういう感じでしょう。
で、その矛盾が笑いを生み出す。だから、みんなが「この人は日本語をうまく喋れないはず」と思ってるところに難しい言葉を入れると、その対照に驚いて、笑いが起こる。 確実に。
僕はよくネタで「御社、弊社、御社、弊社」とか言いますけど、一般の日本人が同じことを言っても笑いが発生しない。
—— なるほど。BJさんが「御社、弊社」って言うから面白いんですね。確かに。
あとリズム。リズムが大事。コメディは言葉だけで成り立っているわけじゃなくて、リズムとか、いつどの情報を出すのかとか、いろいろ細かく考えないといけないんです。
僕のネタだと、「今からBJ がすごい知性的なことを言うぞ」と思わせて、最後に「ダジャレ」というパターンとか。
よく「日本と海外で”笑いのツボ”は違いますか?」と聞かれるけど、僕は同じだと思う。今言ったような「パターン」が笑いを生むと思っています。

—— 「笑いのツボ」は世界共通とのことですが、日本語と英語という「言語の構造の違い」はコメディに影響しますか?
コメディの観点からすると、「語順」が難しい。オチ、つまり面白いことは最後に言わないといけない。日本語の場合はそこに「動詞」が来ることが多いけど、僕が日本語でスタンダップをやるとき、ほとんどオチで「動詞」を言わない。お客さんの想像に任せる。「名詞」で笑いを取る。 これは英語の直訳の悪影響かな、とも思います。
—— 日本語で話しているけど、英語的な語順で落としているってことですね。
そう。あと違いがあるとすれば、挨拶。日本の漫才で、舞台に上がってきて「よろしくお願いします」みたいな挨拶があるから、日本人が英語のスタンダップに挑戦する時にも「よろしくお願いします」の挨拶を省くことができないことが多い。
僕は「Hi, I’m BJ Fox.」って言ってすぐ入れるけど、日本人はいつも「どうも、〇〇と申します。よろしくお願いします。なんとかかんとか」みたいになって、微妙にスタートが遅れてしまう。たまに「”よろしくお願いします”をやめた方がいい」とアドバイスすることがありますけど、国民性的に多分難しいのかな。
—— 笑うまでに長すぎない方がいいってことですね。
最初の笑いが非常に大事です。コメディアンとお客さんとの信頼感や関係性を構築するのが非常に大事だと思います。
TOKYO COMEDY BAR立ち上げと「スタンダップ論」
—— 「スタンダップコメディ専門のクラブ」という、いままでなかった場所を立ち上げようと思った経緯を教えてください。
コロナの前までは、仲間たちといろんな場所で楽しくコメディをやっていたんです。 水曜日に下北沢でやって、土曜日は六本木とか、日本語のスタンダップも定期的にやったりして。 でもコロナで全部活動が休止となりました。
そこで、すぐにここ、TOKYO COMEDY BARを立ち上げようと思いました。コメディをやる「一つの場所」を作ろう、と。 リスクも高いですけど、今(コロナ禍)のままだと何もならない、と思って。
いきなり日本語能力試験の1級に挑戦するみたいに、まず「ドン」と大きいことをして、「エンジン」を作る。そのエンジンを回しながらプラスを生み出して行きたかったんです。実際にTOKYO COMEDY BARという拠点を作ったら、どんどん新しい人が入ってきて、レビューが良くなって、未来が現実的になったと思います。

—— 完全にコロナ禍の中での立ち上げは勇気が必要ですね。
2022年5月に立ち上げたんですが、残念ながら、コロナの規制緩和が一番遅かったのは日本。 僕らは他の国で規制が解除されてコメディが復活しているのを見ていたんですが、最終的に日本で規制緩和されたのは10月。 その最初の半年はもうめちゃくちゃ大変でした。 全部貯金がなくなって・・・。 だからやっぱり本業もしっかりやらないと。ということで今僕は週1回、木曜日だけの出演で、店内のマネジメントも人に任せています。
—— インバウンド効果もあってか、TOKYO COMEDY BARは立ち上げ時から確実にその存在が大きくなっているように見えます。先日は沖縄での公演やレギュラー出演者たちによるアメリカツアーもありましたね。また、オープンマイクで次なるスターをフックアップしたり、「スタンダップコメディ」を日本に普及させる活動も精力的にやられていますね。
はい、出演者もコミュニティも大きくなっているので、いろいろとまとめるのは大変ですが、国内外に笑いを届けるためにがんばっています。ただ、日本で唯一のスタンダップコメディの店であり、コミュニティでもあるということもあり、「役割」や「責任」が全てこの店に集中してきている感じがあります。だから「競合」みたいなお店がもう一つできるといいんじゃないか、とも思っています。
—— スタンダップコメディは政治的な話題で笑いを取るという印象もあるのですが、BJさんご自身は実はあまり過激な政治ネタをしないですよね。
スタンダップコメディは、意外と規制の範囲内で行われています。コメディは何でもあり、という印象もあると思うのですが、ヘイトスピーチやレイシズムはNG。それに、そもそも実はお客さんがそこまで過激な政治的発言を求めていなかったりします。ただ面白い人が面白いことを言うのを求めてる。たまにスタンダップコメディの意味を勘違いしている人もいますね。
—— 先日、村本大輔*さんの日本語でのスタンダップを見たのですが、過激で政治的でした。
村本さんは面白いからいいんですよ。たとえ過激なことを言ったとしても「面白さファースト」です。ただ過激なことを言うだけではただのヘイトスピーチになってしまいます。
*村本大輔・・・お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の主にボケ担当。2024年より渡米し、ニューヨークで英語でのスタンダップコメディを行っている。
—— BJさんはもちろん、村本さんや、宰務翔太さん、ユリエ・コリンズさんなど、日本でもスタンダップコメディアンの活動に注目が集まり始めていると感じています。ここであらためて、スタンダップコメディにはどんな歴史があって、どのような笑いなのか、定義は可能でしょうか?
発祥は正直そこまでわからない。わりと最近、「スタンダップコメディはアメリカでスタートした」と読みました。僕は勝手にイギリスのものかなと思っていた。
—— 私はなんとなくアメリカの文化なのかなって思っていました。
僕はイギリスだと思ってる(笑)。まあ、もしかして同時発生的なのかもしれません。 イギリスとアメリカのスタンダップコメディはかなり違うと思います。定義は・・・何でもいい。 必ずしも一人で話す、という決まりもなく、僕には個人的に好きな「コンビ」もいます。80年代まではイギリスもコンビ主流で漫才に近かった。
—— 時代ごとにその形は変わっているんですね。
はい。今でも変わっています。例えば5年前までは政治的なネタ、社会問題とか人種とかポリコレの話が多かったけど、今はその時代が終わっていて、「ただ面白いこと言いましょう」というのが主流になっている。 多分コメディには「社会の裏側」を見せるという性質があるのだと思います。オバマ大統領の時代は世界が少し安全になっていたので、逆に過激なことを言っていた。でも今は社会が過激になっているから、逆に安全な笑いが求められていると思います。
—— 「過激な社会で、安全な話をする」というのは、例えばどんなことでしょうか。
政治的なネタが難しいのは「笑いに来たのに説教された」みたいなことになるからです。僕のネタがどうして人気になってるかっていうと、アプローチしやすい世界だからだと思う。「あるある」が多いし、微妙に批判も入っているけど、笑いながら批判してるから、「嫌な奴ではないだろう」とみんな思っている。
5、6年前、コロナまでは、「社会的な問題に踏み込まないとスタンダップコメディじゃない」という感じでした。過激なネタを言うコメディアンがどんどんNETFLIXにピックアップされていきました。でも今はみんな飽きてきているんじゃないかと思う。
—— BJさんが好きな、時代を象徴するようなアイコニックなスタンダップコメディアンはいますか。
僕はイギリスのコメディアンしか推薦しませんが(笑)、まずはジェイムス・エイキャスター(James Acaster)。イギリスの若いコメディアンで、『ゴーストバスターズ/フローズンサマー』にも出てハリウッドでもブレイクしました。 彼はすごいシュールな感じ。
自分がスタンダップコメディアンであることを否定していて、「スタンダップコメディアンのフリをしている潜入捜査官」であるとしてます。スタンダップコメディ業界で「変なブツ」が流通しているという噂を聞きつけ、その捜査のために自分がスタンダップコメディアンになりきっている、というテイで(笑)。
James Acasterが自分が潜入捜査官(undercover cop)であると語る動画
—— 面白いですね(笑)。
自分が捜査官であることがバレないように、どんどんネタをブラッシュアップしなきゃいけない、みたいな(笑)。
あとはジミー・カー(Jimmy Carr)。彼はどちらかというと過激、政治的な方なんだけど、彼のいいところは本当に効率よく笑いを起こしてるところ。60分のショーで300個ぐらいのダジャレを入れてる。英語は一つの言葉にいろんな意味があるでしょ。それをうまくいじっています。 これを読んでいる方にとっては、英語の勉強になるからおすすめです。彼は結構炎上するんだけど、別に関係ないって言う態度ですね。
Jimmy Carrのネタを60分に凝縮した動画
—— 過激なことを言って炎上することを、BJさんはどう捉えていますか? しない方がいいのか、燃えても関係ない、なのか。
僕もたまに動画が炎上するんだけど、炎上したら基本的に動画を削除します。一番ベストの炎上は「プチ炎上」。 「神社」のことを「お寺」と言っちゃったり、 「薩摩」を「讃岐」と言っちゃったり。それで日本人同士でコメント欄で「この外国人知識ないよ」「日本人でもたまに間違えるよ」みたいに喧嘩になって・・・、っていう、そういう「安全ゾーンの炎上」(笑)。狙っているわけではないので、避けたいけど、実際「バズる」一つの手段でもあります。でも僕からすると、炎上が好きで見てくれる人たちは多分最終的にファンにならないですね。
今コメディアンはすごく動画のコメントを気にするようになっているけど、僕から言わせると、気にしない方がいい。僕が思う成功の基準はそこじゃない。職場でもそうじゃないですか。「自分の仕事はどういうふうに思われているか」ということに囚われている人はなかなか仕事が前に進まないですよ。



