「洋楽」を教室に! ユニバーサル ミュージックが目指す英語教育(1/2)

ユニバーサル ミュージックUM English Lab.担当 寺嶋真悟さん インタビュー

寺島慎吾さん

進行・構成:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Coco Taniya

「学校の英語の授業がもっと楽しかったらいいのに(よかったのに)・・・」「洋楽で楽しく英語が学べたらなあ」と思う学習者は多いのではないでしょうか。

いま、英語教育の現場で、新しい動きが生まれています。権利処理された洋楽アーティストの楽曲とそれを学ぶための「副教材」を英語を教える先生方に「無償」で提供するプラットフォームが昨年春にローンチし、話題を呼んでいます。ユニバーサル ミュージック合同会社が展開する事業「UM English Lab.」 です。

英語の先生はこの仕組みを使ってオリジナル教材をダウンロード、コストをかけずに一流の素材(洋楽)を使って英語の授業を行うことができます。教える側の負担解消、教わる側の「楽しさ」喚起・モチベーション向上はもちろん、レコード会社にとっては洋楽の浸透・普及を実現することができるという大胆かつ画期的なプロジェクトです。

今回のPOLYGLOTS magazine特集では、この企画の発案者であるユニバーサル ミュージック合同会社USM洋楽マーケティングストラテジー部マネージャーの寺嶋真悟さんにインタビュー。企画の背景、教材の概要、今後の展望はもちろん、「寺嶋さんと洋楽との出会い」や、「英語学習におすすめの洋楽」についてもたっぷりお話を伺いました!

コロナとアルゴリズムによる「洋楽離れ」に危機感

UM English Lab. はユニバーサル ミュージックが持つ「洋楽」のラインナップを英語教材として全国の学校現場に無償で提供するという画期的な試みですね。寺嶋さんはこの企画の発案者でいらっしゃるわけですが、この企画を実現するに至った経緯をまずは教えていただけますでしょうか。

はい。私はユニバーサル ミュージックという会社で、基本的に「洋楽」をプロモーションする部署にいるのですが、この企画の発案の前提として、「新型コロナウイルス」と、「アルゴリズム」がありました。まず、コロナ禍(2020年)以降、海外のアーティストが来日をしなくなってしまう時期が長く続きました。公演はもちろん、「プロモーション来日」もなくなったため、本国のアーティスト側もプロモーションができないので、当然新曲もリリース延期になってしまいます。我々にとってはまさに「これは困った!」という状況でした。

こうなってくると、洋楽とオーディエンスの「接点」がどんどん減っていくんですよ。日本のアーティストは、コロナ禍でも色々と配慮して無観客ライブや人数制限のライブを行ったりして活路を見出せたのですが、海外アーティストはどうしても「言葉の壁」があるので、YouTubeなどで生配信をしても、なかなか届きづらい。特に多感な若者層が洋楽ではなく、どんどん日本の音楽を聞くようになっていったんですよね。

コロナで「洋楽離れ」が加速していった、というわけですね。

はい。しかも、若い人がテレビや雑誌を見ることが減り、コンテンツとの「偶然の出会い」も減ってきているなか、コロナ禍の前後からSNS、YouTube、各種音楽ストリーミングサービスが台頭して、「アルゴリズム」によるおすすめが主流になってきました。アルゴリズムによってその人の趣味嗜好に近い「同じような音楽」がサジェストされていくと、例えば身近にある音楽であるJ-POPをよく聴く若い人たちには、それ以外のジャンルがおすすめされにくくなります。それ自体は全く悪いことではないんですが、私たちのような英語曲(洋楽)を「売る側」「広める側」としては、この「アルゴリズムの壁」をなかなか破れないというジレンマが生じるようになりました。これはどうしたらいいのかなと思っていたんですね。 

そんなとき、当時地方の私立高校で英語教諭をされていた吉川佳佑さんという方が、noteで「洋楽を使った英語教材」というものを公開されていることを知りました。吉川さんは、生徒のリクエストもあって「洋楽を英語で歌う」授業を考えていたそうなんですが、学校で教えられる英語の歌は60年代から70年代の少し古いものが主流でした。もちろん英語の学習レベル的にはそういった楽曲のほうが適してはいるのですが、今の若い人たちが普段聞いているものとはサウンドが違っているので、あまりノれない子も実際にいたそうで。そこでテイラー・スウィフト(Taylor Swift)やショーン・メンデス(Shawn Mendes)といった比較的最近の洋楽を授業のアイスブレイク的に使ったところ、非常に受けたそうなんです。「次は何の曲やってほしい?」「これがいい!」みたいなやりとりが生まれ、どんどんと英語の授業に対する集中力が高まっていった・・・というような内容でした。

ただ、今先生が忙しすぎる、ということが問題になっていますよね。授業以外にも生活指導、進路指導、部活動などいろんな対応をしなきゃいけない。そんな中で「音楽で英語を楽しく学ぼう!」と言っても、歌詞の内容が教育的に適切かどうか、過激な英語表現が入っていないかなどを含めて、選曲するのもなかなか大変だと思うんですね。

そこで、我々のような音楽を扱っている会社が正式に洋楽の教材を作って配布すれば、先生方の負担を減らしながら、楽しい授業を構築するお手伝いができるのではないかと考えました。それがこの「UM English Lab.」になったんです楽曲の著作権料をこちらが負担し、先生方は無償で楽曲と教材をダウンロードできます。今流行している曲や、授業で使用して問題ない楽曲であるという「キュレーション」もこちらである程度行っているので、安心して使っていただけます。そして教材は自由にカスタマイズしていただいて大丈夫です。

「洋楽」のプロモーションと、英語教育の現場のニーズが合致したような形で生まれた教材なんですね。

はい、「人は多感な10代の頃に聴いていた音楽をずっと聴き続ける」ということが様々なデータからも分かっています。そこで、世界各国の音源を扱っている我々ユニバーサル グループが、英語の授業の中に間接的に入っていって「こんな世界があるから1回聞いてみて!」とおすすめすることで、若い人の心に様々な音楽が残るんじゃないかと。

授業を受けた生徒さん達がその後、「そういえば、学校でやったあの曲、どういう曲なんだろう」「もう1回聞いてみよう」「あ、違う曲があるんだ。聞いてみよう」のように、どんどん興味の幅を広げていってくれればいいなと思っています。

今、使用できる楽曲数はどれくらいですか?

立ち上げたばかりですので、(取材時の2026年3月)現在公開しているのは現状15曲ほどですが、この4月からは中学校の英語教科書『New Horizon』を発行している東京書籍さんと協業し、『New Horizon』に掲載されている楽曲の背景や文脈を解説した副教材を作成するなどして、数を増やしています。 

楽曲すべてに学校で授業として使用するための「副教材」がついているんですよね。

はい。なるべく先生が時間をかけて作らなくてもいいように、楽曲とPowerPoint教材のパッケージで提供するという形をとっています。我々は教育分野での実績が今まで全くなかったこともあり、教材は先ほどの吉川先生をはじめとする英語の先生方に協力を仰いで制作しています。現在、1600人を超える先生にご登録いただいています。もっと広く知っていただくべく、制作と並行して目下、協力会社さんを交えてプロモーションの最中です。

公式SNSでは、スティング(Sting)やワンリパブリック(OneRepublic)、キャッツアイ(KATSEYE)など大物アーティストたちから日本の英語学習者たちへのメッセージがありますね。 

はい。ワンリパブリックでは、アニメ『怪獣8号』の主題歌になった「Nobody」を扱っています。スティングやキャッツアイは、今のところ教材のラインナップにはないのですが、自身の楽曲や英語学習について語ってもらいました。今後彼らの楽曲もラインナップに加えられたらと思っています。

uml-teacher


UM English Lab.の反響

2025年のローンチ以降、いままでどんな反響がありましたか?

昨年11月に和歌山で行われた全英連(全国の中学校・高等学校の英語教員約6万人を会員とする英語教育研究団体が主催する学会)でブースを出展させていただき、直接英語の先生方とお話ししました。「こんなことやってるんですか!」という声をたくさんいただいて、嬉しかったです。先日、そこでつながった三重県津市の小学校で、私がこの教材を使った出張授業をしたんですよ。

どんな授業をされたのでしょうか?

全校生徒を対象に2時間いただいて、ボブ・マーリー(Bob Marley)を歌ってもらう授業でした。歌への導入として、まず「ジャマイカってどこにあると思う?」「ジャマイカの国旗ってどれだと思う?」「ジャマイカと三重県を比べたらどっちが人口多いんだろう?」などのクイズを出して、ジャマイカの歴史を学んでいきました。ジャマイカがイギリスから独立したのは1962年ですが、それまでは植民地として支配され、黒人は奴隷のように扱われていたこと、独立後の内戦状態の中、ボブ・マーリーが登場した、というストーリーを伝えました。

子供達ですら銃を持ち、同じ黒人同士で殺し合いが起きた。ボブ・マーリー自身も撃たれ、負傷しました。そんな「未来が見えない」状況の中で、彼は「Don’t worry, everything’s gonna be alright.」(心配しないで、大丈夫だから)と歌って子供達を勇気づけたのです。そうしたことを話してから最後にみんなで「Three little birds」という曲を歌いました。

英語の歌を歌うのは小学生には難しいかもしれないので、歌詞に「ふりがな」をふりました。授業の後に「難しそうだったけど、歌えて楽しかった」とか「歌えたことがびっくりです」とか、ものすごくいい反応や感想をいただいて。それは本当に嬉しかったですね。

三重県津市の小学校での出張授業の様子。ボブ・マーリーをテーマに行われた。

まさに「教科横断」というか、歌を通じて社会や歴史のことを学びながら、英語を学んだわけですね。UM English Lab.を使っての授業は基本的に、「語彙やその歌が生まれた社会的な背景、歌詞の掘り下げ」(思考・読解・判断力)と「音、発話」(英語4技能)の2セットで2時間、という構成なんですよね。

はい、基本的にはそのように作っていますが、自由にカスタマイズしていただけます。1コマまるまるじっくり使っていただいてもいいですし、「今日はサビだけで 5分だけね」といった使い方でももちろんOKです。やはり教科書も進めなければいけないと思うので、学期末のお楽しみ時間ですとか、総合の時間でやってみようか、というようにも使っていただけたら嬉しいなと思っています。

理想としては、「探究学習」としてこの教材を1時間使ってくれたらありがたいなと思いますが、授業の進め具合としてそうはいかないでしょうし、授業の最初に歌うだけでもいいので使ってもらえると嬉しいです。そのための歌詞カードだけの配布などもしています。