自作の曲がインドネシアとの架け橋に
私立恵比寿中学 安本彩花が語る“好きの力と、世界への挑戦”(1/2)

進行・構成:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Coco Taniya

世界と学びをつなぐメディア、POLYGLOTS magazineの独占インタビュー第4回は、私立恵比寿中学のメンバーとして活動しながら、ソロでもオリジナル楽曲制作に取り組む安本彩花さん。グループ活動と並行して、20歳から曲作りを続けてきた安本さんは、今年ついに「NecoMe」として、自身のソロ楽曲「Bobby makes you smile!」を世界に向けてリリースし、新たな一歩を踏み出しました。

きっかけは、Expo2025 大阪・関西万博のインドネシア・パビリオンでの偶然の出会い。そこからわずか数ヶ月で楽曲制作と海外での初パフォーマンスが決まり、まるでドラマのような日々を経験した安本さん。異国で感じた人の温かさや自由さ、英語とインドネシア語への挑戦は、彼女の考え方や活動への姿勢に大きな影響を与えました。

今回は、楽曲「Bobby makes you smile!」誕生の裏側から、インドネシアで得た学び、言葉への新しい挑戦、そして「好き」を続けるための心の持ち方まで、安本さんのまっすぐな思いと言葉をお届けします。

偶然の出会いがつないだ夢への一歩

まず最初に、安本さんがグループ活動以外にソロでどんな音楽活動をされているのか教えてください。

はい。私は20歳くらいの頃からオリジナル曲の制作をしていて、えびちゅうのライブとは別に、年に1回ある生誕祭でソロライブを開催しているんです。そこでずっとオリジナル曲を披露しています。趣味の延長のような感じで続けていたんですけど、楽曲制作を続ける中で「この曲を配信リリースしたいな」とか、「自分のファンの人だけじゃなくて、幅広く私の曲を聴いてもらえる機会があったらいいな」っていう夢を持つようになっていきました。

今回、インドネシアとの交流のきっかけとなったオリジナル曲「Bobby makes you smile!」の制作について教えていただけますか?

今年の6月に、大阪万博のインドネシアパビリオンで開催されたイベントにご縁があって出演させていただいたんです。そこで、画家の井上文太さん(日本とインドネシアの国交の象徴として誕生したアートキャラクター、“CaptainBobby”のイラストを担当)とお話しする機会があり、井上さんが「彩ちゃんはどんなことが好きなの?」と興味を持って聞いてくださったので、「これはチャンスかもしれない」と思って、「実は私、自分で曲を作ったりするんですよ」ってお話をしたんです。

その時にちょうど楽曲データを持っていたので、「こんな感じの曲を作ってるんです」って、その場で聴いてもらいました。そうしたら井上さんが「今僕がやってみたいと思っているプロジェクトにピッタリだし、彩ちゃんの活動を応援したいと思ったから、一緒にやってみない?」と声をかけてくださったんです。そこから一緒に楽曲制作をすることになり、インドネシアのJFC(ジェンバー・ファッション・カーニバル/Jember Fashion Carnaval。インドネシアの東ジャワ州ジェンバーで開催される大規模なファッションカーニバル)っていうイベントにも出させていただくことになりました。

今回の「Bobby makes you smile!」は、猫ちゃんがテーマの楽曲なんですよね?

はい。「ボビー」はインドネシアの大統領の愛猫の名前で、その猫ちゃんをモデルにした「キャプテンボビー(CaptainBobby)」というキャラクターにはインドネシアの平和への願いや、世界のみんなに笑顔や勇気を与えたい、という思いが込められていて、今回、そのキャプテンボビーをテーマに曲を作ってみたらどうかと提案していただいたんです。

6月にイベントがあって、実際に8月にはもう現地でのパフォーマンスがあったということは、かなり急ピッチでの作成だったんですね。

そうなんです。本当に私もびっくりで、全部が全部、急にバーっと決まっていきました。いつもお世話になってるレーベルの方やスタッフさんにも無茶を言って、忙しい中で楽曲のアレンジや録音などの制作を進めていただきました。歌詞も、私は最初は英語で作るつもりが全然なくて、急遽「英語の歌詞にしよう」と決まったんです。えびちゅうの楽曲をディレクションしてくださっている方がもともと帰国子女で英語を話せるので、その方と相談しながら英詞にしていった、という感じです。

じゃあ最初お話が来た時は、日本語で作る気満々だったんですね。

そうです!でもやっぱり、世界で歌っていくことや、いつか曲が世界に広まっていったらいいなっていう目標もあったので、となるとやっぱり英語ですもんね。でも私は本当に英語が分からないし喋れなくて…。色々な人の協力のもと、この曲を完成させることができました。

先ほども、活動の中でソロの楽曲をリリースするのが目標だったとおっしゃっていたと思うのですが、実際にこの曲のリリースが決定した時はどんなお気持ちでしたか?

もう本当に嬉しくて!私のことを特に好きでいてくれてるファンの皆さんには、自分から夢の話をしたりもしていたので、早く実現させてみんなに報告したいってずっと思っていました。こうしてやっと夢が叶って、しかも急に話がどんどん進んでいくなんて本当にドラマのようなストーリーで、とても嬉しいです。

安本さんは、今回のお話が決まってからキャラクターやインドネシアについて知る機会も多かったと思うのですが、その世界観や文化をどのようにご自身の表現に取り入れていったのでしょうか?

そうですね。事前にキャプテンボビーのキャラクター像をお聞きした時に、自分の中にあった「日本のアイドルとして、えびちゅうとして、みんなを引っ張っていく存在になりたい」という願望とすごくリンクする部分があったんです。なので、自分のこれまでの経験や、自分が思うかっこいいヒーロー像を重ねながら歌詞にしていきました。

もともとソロライブで披露する予定で制作していた音源も、「アニメの主題歌みたいな曲が作りたい」「かっこいいヒーローがいて、そのヒーローに合う曲を作りたい」というイメージで作っていたので、キャプテンボビーはまさにそのヒーロー像に当てはまっていて、頭の中で描いていたものがそのまま完成されていくような感覚でした。

インドネシアのことも、最初は詳しくなかったのですが、インドネシアパビリオンに行って文化や歴史を知ることができたので、そこからインターネットやSNSで「インドネシアの方が愛しているものって何だろう」「どんな音楽が好きなんだろう」と少しずつ調べて、楽曲に取り入れていきました。

英語の楽曲はグループでもソロでもあまりなかったと思うのですが、発音やパフォーマンスで意識していたことはありますか?

そうですね。とにかく英語の発音が苦手で、英語の歌詞がある楽曲を歌う時にいつもボイトレの先生に「本当に彩花は英語ダメね」ってめっちゃダメ出しされるぐらいだったので、今回も不安いっぱいでレコーディングしたんですけど。笑
とにかく海外のアーティストみたいな感じをイメージして、自信満々に歌おう!と思ってやりましたね。

あとは、レコーディングの時にエンジニアさんに伺った話で、日本人の英語の発音は「サムライアクセント」と言われていて、ちょっとカタコトな感じも海外の方に愛されているんだよ、と教えていただいたんです。それを聞いて少し安心して歌うことができました。

インドネシアで感じた、人の温かさと言葉の壁

海外での現地の雰囲気についてもお話がありましたが、ソロで海外に行くのは今回が初めてだったんですよね?

はい。マネージャーさんと2人きりで行ったんですけど、2人とも英語が喋れないんですよ! メンバーみんなで行く時は、アテンドしてくださるイベンターの方がついてくださって、入国審査のときも「こう聞かれたらこう答えるんだよ」って教えてくださるんです。でも今回はそういうのが全くなかったので…。
飛行機に乗りそびれそうになったり、「チケット取れない!」「これ全然読めない!」みたいな瞬間があったりして。でもなんとか、笑顔とジェスチャーで乗り切りました。笑

現地でJFCの担当の方と合流して、そこから車で移動したんですが、その担当の方も英語がしっかり喋れる感じではなかったので、ずっとスマホの翻訳機能を使ったりしていました。でも、私自身も“喋ってみたい気持ち”があるので、知ってる単語をとにかく言ってみたりとか。とても学びのある時間でした。

JFCでのパフォーマンスの様子

JFCでは、オープニングアクトとしてのパフォーマンスだけでなく、当初予定されていなかったファッションショーにも急遽参加されたと伺いました。

はい。インドネシアに行く前にスタッフさんから、「とにかくインドネシアはフィーリングとか、その人の気持ちを大切にするところだから、自分が参加する場所じゃなくてもついていきな!」って言われていたんです。インドネシアでは、その場の流れで急に何かが決まったり、思いがけないチャンスが生まれたりすることが多いみたいで、まずは“その場にいること”がすごく大事なんだよ、と。だから現地でも、とにかくいろんな人にひっついて回っていたんですよ。

そしたら担当の方が、私が着ていた衣装を見て「いいね!」みたいになって、「君、その衣装で歩いちゃいなよ!」って言ってくださって、「はい、君、ここ歩いて」って言われて、「あ、じゃあ歩かせてもらいます」って感じで。笑
一緒に歩いていた現地の子ども達も、私がそこにいることに全然違和感を感じていないみたいで、「お姉さん一緒に!次右!左!」ってダンスを教えてくれて、とても楽しかったです。

インドネシアの皆さんの国民性というか、本当に何もかもがその場で決まる感じがあって…。日本だと、たとえばリハーサルがあったら、何時開始で何時終了で、「誰々さん何時入りです」みたいにスケジュールがきっちり決まっているじゃないですか?もちろんそれがいい部分でもあるんですけど、息苦しくなっちゃう時もあるんですね。
インドネシアに行ったら全くそういうのがなくて、昨日の時点では「明日は12時集合ね」って言ってたのに、当日の2時間前に「やっぱ14時に来て!」って連絡が来る、みたいなことが多かったんです。皆さんが自由な生き方でフランクなコミュニケーションをとっているから、急遽「ランウェイ出てみない?」みたいなことが起きるんですね。おかげで私もチャンスをゲットすることができたんだと思います。その瞬間のフィーリングを大事にするような国民性や、その場の雰囲気って、本当にすごくいいなって感じました。

ファッションショーはどんな雰囲気だったんですか?

あの日はもう街全体がお祭りみたいになっていました。3キロぐらいある道を歩いていると、「ジャパニーズ?」「ケーポップ?」みたいに話しかけられて会話する、みたいな感じで。共演者以外の現地の方とも交流させてもらいました。みんな笑顔で接してくれるし、初対面なのに「君に今日会えてすごく幸せだ」って伝えてくれるのがすごく素敵だなって思いました。

日本だと、特に東京は誰かと目が合ってもすぐそらされるような印象があるんですけど、インドネシアの皆さんは目が合うとニコって笑ってくれて、3秒くらい見つめ合う瞬間があって。それもすごくいいですよね。

現地の方と交流する中で、「これ、英語ができたら言えたのに」と悔しくなる瞬間はありましたか?

めちゃくちゃありました!英語を喋れないこと、勉強できていなかったことを何度も後悔して…。ファッションカーニバルだったので、共演者の中にランウェイで活躍されている同世代の有名なモデルさんがたくさんいらっしゃったんです。皆さんフランクに話しかけてくださったんですが、「なんとなく言ってることはわかるんだけど、こんな時なんて言えばいいんだろう?」っていうことばかりで。100パーセントで返せないということがすっごい悔しかったです。

パフォーマンスさせていただく上でも、ステージングを演出家さんが説明しに来てくださったんですけど、お互い母語しか喋れない状態だったので、「大丈夫?」と確認してくださったときはとにかく「ハッピー!」とだけ言って、あとはジェスチャーで会話していました。そういう時に、英語が話せたら、もっと相手との会話を私がリードできたのにな、という気持ちがすごくありましたね。
こうして英語が共通のコミュニケーションツールになっている今、絶対に勉強するべきだって思って、やっと勉強し始めました。

英語学習を始められたんですね。今はどんな教材で学習されているんですか?

最初は、「中学の英文法を学んだら大体喋れるようになる」という記事をネットで見て、文法の勉強をしてみたんです。でも、文法ドリルが本当に苦手で、やっていてとても苦しかったんですよ。
で、これは自分に合ってないなって思って。自分が母語を喋れるようになった時も、無理に勉強して覚えたわけじゃなくて、日常の中でたくさん聞いて、言語に触れることで身についたはずだ、と思ったんです。

それでちょっと捉え方を変えて、例えば「ブック=本」って単語を覚えるんじゃなくて、「bookはbookだ」って思うことにしました。簡単な英語で日常会話をしている「ペッパピッグ」というアニメ教材があるんですけど、それを毎日見るのを習慣にしようと思って続けています。日常的に耳で聞いていたら、日本語を覚えた時みたいに覚えられるかなと思ったので。
なるべく自分が苦しくならない方法で英語を取り入れようと思って、今はそういう意識で頑張っています。

素晴らしいですね。インドネシア語の学習はどうですか ?

インドネシア語はどちらかというと、文法が日本語に近い感じがして、まだ少し英語よりも身近に喋れるのかな、なんて思ったりしています。でも発音が難しくて、「タントリル」(tongue trill)って言って、普通の日本語じゃ出せない、なんか舌を巻き散らかす発音があるんですよ!

巻き散らかす!?

そう!それがめっちゃ出てくるんですよ!本当に難しくて…。でもできるようになりたいですね。少しでも向こうの方々が喜んでくれる言葉や単語を覚えていって、MCとかで話せるようになりたいなって思います。