「洋楽」を教室に! ユニバーサル ミュージックが目指す英語教育(2/2)
ユニバーサル ミュージックUM English Lab.担当 寺嶋真悟さん インタビュー

進行・構成:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Coco Taniya
ボブ・マーリーなどレジェンドの楽曲で歴史を学べるのはとても価値のあることですし、ワンリパブリックなど「今の音楽」で新鮮な英語に触れられるのも本当にいいですよね。余談かもしれませんが、「今の洋楽」と言うと「ヒップホップ」は外せないような気がしますが、UM English Lab. ではヒップホップを扱っていますか?
ユニバーサル ミュージックには、本当にたくさんのヒップホップのカタログ(楽曲)があるのですが、やはりどうしても「非教育的」なワードが多く含まれているので、なかなか使いづらいというのはありますね・・・。ただ、洋楽と英語に興味を持ってもらうために、ヒップホップの要素の一部を伝えることはあります。
先ほどの津市の出張授業の時に「洋楽にはライミング(韻を踏むこと)が必ずあるよ」ということを伝えた後に、「じゃあ、世界最高峰のライミングを聞いてみよう」ということでエミネム(Eminem)の「Venom」という曲(映画『ヴェノム』の主題歌)を流して、「この曲で“Venom”っていう言葉を何回言ってるかな?」というクイズを出したんです。「Venom」という曲は、同名映画の主題歌ですが、エミネムの超絶なスキルで「Venom」という言葉を元に別の単語で多くの韻を踏んでいるんです。実際には「Venom」という言葉は1回しか言っていないんですが、そのサビを聞いてもらった後に「さぁ曲の中でVenomって何回言ってるかな?」と聞いたら「11回言ってる!」とか「8回!」といった声があがりました。そこで「正解は 1回です!」と伝えると「えー!」みたいに盛り上がりましたね。
Eminem – Venom
それはきっと盛り上がりますね!今スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg。カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパー)が子供番組をやる時代だったりするので、個人的にはラップでの教育や語学の可能性はあるんだろうなと思っているのですが。
そうですね、ただどうしても何かしら教育現場ではきわどいワードやトピックがありますよね。ドラッグディールやアルコール、バイオレンス、女性蔑視、FワードやNワードなどなど。本当はそうしたことの背景は教えるべきだと思うんですよ。「曲の中では使っているけど、こんな言葉を使っちゃうのは絶対駄目なんだよ」というようにして。実際、特にストリート出身のネイティブの方とフランクに話をしていて、Fワードが出ないことってあまりないんです。しかし、だからといってみんなが「F—」って言っていいかというと違いますし。
最近でもケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar。カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー)が米音楽界最高の名誉と言われるグラミー賞の主要部門を受賞していたりして、これだけ評価され、話題になっていたりもするので、本当はそちらの楽曲や文化を扱えればなと思いながら・・・UM English Lab.のラインナップとしては今は扱っていません。いつかは、とは思っています。

寺嶋さんの音楽・英語遍歴
寺嶋さんご自身について少しお伺いさせてください。寺嶋さんは学生時代から英語が好きだったのでしょうか?
実は全く好きではなかったんです。中学1年生の時、「knowって、Kを発音しないのになんでKがあるんだよ!」といった状態で。むしろ、英語嫌いでした(笑)。しかし、2年生の時だったと思うんですが、英語の先生が授業で「We are the world」とか、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)やマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の曲をかけてくれて。しかもちゃんとその曲の背景も教えてくれたんです。そこで歌われている事柄が政治的なことだったり、環境問題だったりということを知り、「すごい人がいるんだ!」と思って、そこからどんどん洋楽を聞いていったという感じです。
音楽を使った授業のおかげで、英語嫌いが解消され、さらにそこから洋楽に入っていったということですね。まさにUM English Lab. がやりたいことをご自身がかつて体験されていたわけですね。
そうですね。ですから、UM English Lab. を入り口に、生徒さんが色々聞いてくれるとやはり嬉しいなと思いますね。「興味の種まき作業」のような感じで。
中学生でマイケル・ジャクソンに触れた寺嶋さんのその後の音楽遍歴をお伺いしてもいいですか?
今は仕事で触れることも多いので、ヒップホップ、R&B、ポップなどオールジャンルを聞いていますが、自分でCDを買えるようになった高校生ぐらいの時は、ヘヴィメタルとか、ハードロックとか、ひたすら激しいものばかり聞いていました。逆にR&Bとか、ヒップホップとかは高校生の時は全然興味なくて(笑)。毎月5日に「Burrn!」(シンコーミュージックが刊行するヘヴィメタル・ハードロックの専門雑誌)を買うのを楽しみにしていました。
そうだったんですね!ヘヴィメタルの歌詞で英語に触れていったんですね。
はい、歌うのが好きだったので。メタル・バンドの歌詞は(神話、伝説などの)「コンセプト」から作られているんだとか、そういう文化的なことも学びましたね。自分は留学経験もないですし、ペラペラでもないですが、ある程度、仕事で支障はないレベルで使えるようになったのも洋楽を通した学びが大きいですね。
印象ですけれど、「洋楽で育った」方は英語への「感度」が高い気がします。 例えばユニバーサルさんの洋楽セクションには英語がご堪能な方は多いのでしょうか?
最近の若い社員はペラペラな人は多いですが、そうでもなくて「普通に好き」という人もたくさんいますよ。みんな、「英語への抵抗がない」という感じですね。
プロモーションを担当していると、海外のアーティストと直接関わることも多いと思いますが、何か印象的なエピソードがあればお伺いしてもいいですか?
よく覚えている話だと、以前ケイティ・ペリー(Katy Perry)が来日した時、テレビ局主催の野外イベントで歌ったのですが、夏でとても暑い中、ラバーの衣装でパフォーマンスしていて。その後に倒れるぐらいフラフラになっていて、彼女のマネージャーから「これは休ませないと無理だ」って言われて、その後の行程が全部遅れたり、キャンセルするものもあったりしました。あとは、キッス(KISS)が渋谷のタワーレコードでサイン会をした後に「スクランブル交差点に行きたい!」となって、あの格好で車に乗せて連れて行って、実際に交差点を歩いてもらったことがありましたね。「KISSが渋谷のスクランブル交差点に!」ってことで一時渋谷が騒然となりました。その時私が「はい、歩いてくださいね〜」「はい、写真撮りますね〜」などのアテンドをしていました(笑)。
そんなイレギュラーな案件も英語でご対応されるんですよね。英会話スキルも求められると思うのですが、英会話教室など通われていたんですか?
いえ、大学の時にずっと毎日NHKの「ラジオ英会話」を聞いていたぐらいです。ラジオ英会話と、ひたすら洋楽で地道にやっていました。
その2つで海外アーティストとも渡り合える。それは「ポリマグ」読者の方にぜひ伝えたいですね。
はい、洋楽とNHKのラジオでいけますね(笑)。いけている、と思います(笑)。あとは「準備」ですね。やることは決まっているので、ある程度想定問答を用意しておく感じです。
英語学習におすすめの洋楽
寺嶋さんが英語学習者におすすめしたい「洋楽アーティストベスト3」を教えていただけますか?
まずは、やはりビートルズ(The Beatles)ですね。今でも聞かれていますし、他の60年代グループと比べて圧倒的に古くなりません。言葉遣いや発音もすごく綺麗ですし、歌詞の世界もすごく面白い。 「Hello, Goodbye」での対義語をつなげる言葉遊びは単純に面白いですし、もっと「深い」歌詞もあります。みんな知っているグループで、「永遠のマスターピース」としてお勧めですね。2028年には伝記映画が公開されるということもあり、また世界中で話題になると思います。
The Beatles – Let It Be (Official Music Video) [Remastered 2015]
あとはレディー・ガガ(Lady Gaga)。世界観が非常に独特な人ですね。彼女自身がかつてハウスミュージックなどのクラブシーンにいて、LGBTQの人たちに支えられてきたということを歌詞に落とし込んだのが「Born this way」ですが、これを発表したのが2011年です。その時期はまだ「LGBTQ」という言葉が今ほど浸透していない時代でした。そんな中で、「これからあなたは誰かに色々言われるかもしれない。でも、ありのままで、自分の道を行くんだよ」っていうことを高らかに宣言するエンパワーメントソングです。先日の来日公演も素晴らしかったですね。同じ時代に生まれてよかったなと思いますね。実は言葉も結構綺麗で、あんまり崩してはいないんですよね。UM English Lab.でも、人権意識が高く、ダイバーシティに関心のある先生方にたくさん教材をダウンロードしていただいています。
Lady Gaga – Born This Way (Official Music Video)
もう1人は、やはり先ほどもお話ししたボブ・マーリー(Bob Marley)ですね。ジャマイカという200万人くらいしか住んでない小さな国で生まれた音楽である「レゲエ」を携えて世界に飛び出した人ですね。一度イギリスに亡命していた彼が、祖国ジャマイカの状況を案じて、国民のために「ワン・ラブ・コンサート」を開いて、当時対立していた2つの政党の党首をステージ上で握手させるという偉業を成し遂げました。彼の「One Love」という曲はジャマイカの観光協会のテーマソングにもなっているんです。
Bob Marley & The Wailers – One Love / People Get Ready (Official Music Video)
我々がボブ・マーリーを扱っていることもあり、ジャマイカ大使館のリチャード大使という方と様々なお仕事でご一緒させていただいていました。先日、その大使の任期終了のさよならパーティーがあったのですが、彼女がご挨拶の最後に「One Loveを歌おう!」とおっしゃって、みんなで歌いました。国の代表がボブ・マーリーのレガシーを受け継いで彼の曲を歌う。ジャマイカの人の誇りみたいなものをすごく感じました。
楽曲の特徴としては、彼の英語はジャマイカ特有のアクセントがあったり、「英語学習的」に必ずしも「正しい」ものではないかもしれません。でも、そういうところも含めて音楽として素晴らしいです。信念が通った素晴らしいアーティストですね。
「英語の正しさ」みたいなこと自体が今、世界的な「英語の使用状況」(ネイティブスピーカーより、ノンネイティブスピーカーの方が多い)にそぐわない気もしますし、「いろんな地域にそれぞれの英語がある」ということ自体を学ぶのはとても重要なことですよね。
はい。だから、日本でももっと「日本人は英語がしゃべれるよ」って言っていいのに、って思いますね。
それこそ洋楽とNHKラジオのみで海外アーティストと渡り合う「寺嶋さんスピリット」ですね。
そうですね(笑)。
ビジネスと今後の展望
ありがとうございます。最後にUM English Lab.の今後の展望や、ビジネスとしての展開についてお聞かせいただけますでしょうか。
我々としてはまず、アーティストのバリューを上げて、CDや配信で聞いてもらうことが第一です。ですから「学校教育」という、ある種「絶対に逃げられない、スワイプできない」場所で、弊社の超一流のアーティストの音楽を聞いてもらうことができれば、必ず好きになってくれる、気になってくれると思っており、それは弊社にとってはとてもありがたいことです。ただ、それだけではなく、UM English Lab.は、「This is MECENAT2025」(企業などが全国各地で取り組む企業メセナ[芸術文化振興による心豊かなより良い社会づくり]の社会的意義を示すことを目的とした認定制度)にも認定されていまして、私はこの活動を短期的なビジネスというより、文化的に意味のある活動と捉えています。
今後の展望ですが、今は学校教育の中で若い人を対象に活動をしていますが、実は大人の方でも「歌いたい」「洋楽をもっと知りたい」という方は多いんです。定年後、英語を学びたいというニーズもあるので、弊社の楽曲を使って「英語で歌ってみよう」といったスクールのようなものができたらいいですね。
自分も昔から洋楽が大好きなので、今、こんな授業を受けられる生徒さん達が羨ましいです。あらためて、洋楽と英語の親和性の高さを感じました。
はい、今は昔のようにアルバム1枚3,000円で、「このアルバム、ハズレだったらどうしよう」と迷うこともなく、ほぼ無料で世界中の音楽に触れられる環境にあるので、どんどん聞いて、歌って、意味も調べてほしいですね。そういう活動はやっぱり楽しいですし。
洋楽で学ぶことは、英語のアウトプット活動として、英語と日本語のアクセントや強弱の違いが理解できるのも強みです。日本語は平たい感じですが、英語には「強いところ」「弱いところ」があるということも音楽を通じて学べます。あとは、海外の人といろいろ話しをする時に、「この曲知ってる?」「あのコンサート行ったよ!」といったように盛り上がり、洋楽自体が話のトピックというか「コミュニケーションツール」として機能することも多いと思います。
得られるメリットが多いので、洋楽で英語を学ぶことを強くおすすめしたいですね!
これからもどんどん広まってほしいです。今日は本当にありがとうございました!

POLYGLOTS magazine独占インタビュー ネルソン・バビンコイさん編はこちら:
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