「杉本博司 絶滅写真」:終わりと始まりの円環

取材・編集・写真(キャプション記載のあるものを除く):POLYGLOTS magazine編集部

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みなさんは杉本博司さんを知っていますか?

杉本さんは1970年代からアメリカと日本を行き来しながら、写真、建築、舞台芸術の演出など、ジャンルを超えて活動し続ける、世界的な現代美術作家です。

今、東京千代田区にある東京国立近代美術館で、そんな杉本さんの芸術の「原点」とも言える「銀塩写真」を展示した展覧会「杉本博司 絶滅写真」が開催中です。

今回の記事ではこの展覧会の内容をレポートするとともに、杉本さんの芸術のエッセンス、また「絶滅」という言葉に込められた意味を探っていきます。

現代美術作家、杉本博司とは

杉本博司:1948年東京生まれ。1970年に渡米、74年から日本とニューヨークを行き来しながら芸術活動を開始。写真だけでなく、建築、舞台芸術、執筆など幅広い分野で活動。「時間」「記憶」「存在」といった哲学的なテーマを扱った作品は国際的な評価を受けている。

「時間」や「光」についての問い

展覧会「杉本博司 絶滅写真」には杉本さんの初期から近年の作品まで、約60点が展示されています。

会場に入場してまず目にするのが「ジオラマ」というシリーズです。これはアメリカ・ニューヨークにある「自然史博物館」に展示されているジオラマ(模型)を被写体とした作品群です。

「動的なものを切り取って止める」役割をするはずのカメラですが、ここでの被写体である「ジオラマ(模型)」は、そもそも「止まっている」もの。写真、しかもモノクロームの銀塩写真として現像されることで、あたかも被写体が元々「動いている」ものだったかのように、躍動感や生命を感じるのが逆説的です。

このほかにも、一本の映画の「始まりから終わりまで」を長時間露光で撮ることで時間を一枚の写真に閉じ込める「劇場」シリーズ、「原始人が見たであろう景色を現代人が見ることはできるか」という問いを具現化した「海景」シリーズなどが続きます。

これらの作品からは「時間」や「光」に関する探究や挑戦が杉本さんの芸術の根底にあることが窺い知れます。

「ピンボケ」が表すもの

展示を進んで行くと、ル・コルビュジエ設計の「サヴォア邸」や、ニューヨークにかつてあった「ワールド・トレード・センター」など、見覚えのある有名な建築物の写真が並びます。でも何か様子が違います。近づいてよく見てみると、被写体である建物がいわゆる「ボケ」た状態で写っているのです。

杉本さんはこのシリーズをこう説明しています「私は大型カメラを使い、焦点をボカすことによって、建築が建つ前の、建築家の脳内ビジョンが再現できるのではと考えた」。

<観念の形>という章立てで展示されているこの「建築」シリーズでは、まさに「観念」、つまり本来写るはずのない、誰かの「頭の中」を覗いているような感覚を味わうことができます。

自ら立てた「問い」を具現化するために、常識的には選択しないような大胆な手法を用いる。杉本さんの写真が「コンセプチュアルアート」(アイデアやコンセプトそのものを「アート」とする芸術運動)とも捉えられる所以ではないでしょうか。

「絶滅」が見つめる「始まり」

最後は「絶滅写真」がテーマの章に入っていきます。ここで杉本さんは、デジタル技術の進展と様々なデジタルメディアの台頭により、「銀塩写真」というメディアの終焉を見据えています。

一つのメディアが終わる、ということは、始まりもあったはず。この展示では「化石」を「過去を記録するメディア」と見立てたり、写真技術の始祖である学者タルボットが残した19世紀の「ネガ」をプリントして現代に蘇らせたり、「時間を止めて、場面を切り取りたい」という人間の原初的な欲望を、「絶滅する銀塩写真」という手法を通じて、我々に伝えています。

終わるメディアで始まりを表現する。「絶滅写真」とは、ただ何かの「終わり」を示すだけでなく、物事の「円環」を表現した展示とも言えるのかもしれません。

デジタルカメラが主流となり、「写真の証拠能力」が失われた今だからこそ、ここに展示された銀塩写真の数々に写された「そこにあるもの、あったもの」は見る人の目に、心に、大きなインパクトを与えるはずです。

みなさんもぜひ会場で「絶滅写真」のすごみを体感してみてください。

展覧会情報

© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

展覧会名:杉本博司 絶滅写真
英語名:HIROSHI SUGIMOTO: EXTINCTION
会期:2026年6月16日(火)~9月13日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー https://www.momat.go.jp/access
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は20:00まで)
入館:閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般2300円、大学生1200円、高校生700円

※本展の観覧券で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」も鑑賞できます。3階の所蔵品ギャラリーでは、サテライト展示「劇場・海景・スギモトノート」も開催されています。
会期、チケット、関連イベントなどの最新情報は、展覧会公式サイトでご確認ください。

【公式サイト】杉本博司 絶滅写真 | 東京国立近代美術館

emoji_objects本記事のイチオシ!フレーズ

out of focus

焦点が外れている、ピンボケで

ポイント

文字通り、focus(焦点、ピント)から外れているので、out of focusと言います。また、ピンボケの状態はblurryとも表現することができます。

他に、写真・カメラに関する表現には以下のようなものがあります。日常的に写真を撮る機会は多いので、覚えておくと役に立ちます!

in focus(ピントが合っている)
backlit(逆光の)
grainy(粒子が粗い、ざらついた)
high-resolution(高解像度の)
low-resolution(低解像度の)
portrait(人物写真)
landscape(風景写真)

例文

The building in the photo was out of focus.(その写真に写ったビルはピンボケだった)

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