平野と伊藤の「よけいな話」
#2 VIVANT見てます?見てないですよね。(AI編その2)(1/2)

イラスト:スミアヤカ

平野と伊藤の「よけいな話」、今回も引き続きテーマは「AI」です。
前編では、AIの使い方から「その人らしさ」、言葉や表現に宿る歴史、そしてなぜかディナーショーにまで話が広がったお二人。
#1「AIとディナーショー」はこちら!: https://mag.polyglots.net/4477/yokehana-1

後編は、「AIが歩いて、自分で経験するようになったら、エッセイも書けるのでは?」という伊藤さんの不安から再開します。人間とAIの違いはどこにあるのか。AIが作ったものに、私たちはどう向き合うのか。『国宝』や『ちいかわ』の激流に飲み込まれながら、話は今回もあちこちへ…。

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『国宝』と『ちいかわ』の激流

伊藤

AIに関するニュースでコメンテーターをして、「これからの文学はどうなっていくんでしょう」みたいなことを聞かれた時に、「少なくとも私が主戦場にしているエッセイは、自分でいろんなところに行って経験したことを書く、『本当の話』であることも評価の一部になっていると思うので、AIが実際に歩いて経験して書くことがない限り、真似できないと思います。」っていう風に答えてたんです。 

でも一週間前ぐらいに、爆走するロボットを目の当たりにして。  「え、歩くじゃん」と思って。こいつらが歩いて、個として経験をして、人格ができていったら、もう普通にエッセイ書けるじゃんと思って。 ちょっと落ち込んでました。 

平野

あ、落ち込んでる。 

そうだな。でもやっぱり核心部分は、訓練したものから発生するわけでしょ。完全に独立した認知主体ってものは、今の技術では持てないわけだよね。
でも、人間だってみんな何かの影響を受けているわけじゃん。親とか、読んだものとか、友達とか芸能人とか。それで服装を真似したり、誰かにモテたくてその人が好きそうな格好をしたりとか。
そういうふうに常に相互干渉の中で成り立ってるんだから、純然たる独立した主体なんて幻想なんじゃないかって考えると、AIとの距離がぐっと縮まるよね。生身の人間も訓練されてるからっていう。

伊藤

そしたらもうだめじゃん。
AIがもう全てをやって。人間にできることはディナーショーと短歌。 

編集部

人間の存在証明として、「ディナーショーをやれ」。

伊藤

一億総ディナーショー。 

平野

え〜ディナーショーはでも、25年ぐらい前に売れてた人とかにやってほしいんだよね。 

伊藤

渋さが必要? 

平野

ちょっとやっぱ味わいがさ。 
仕事でこう、いろんな街に行くけれども、なんかあんまり縁のない街に来たなって思ってたら、そこで一番よさそうなホテルで・・・。 

伊藤

『国宝』の後半だ!

平野

そうなの?『国宝』見てないでお馴染みのオレだから。 

伊藤

『国宝』の後半ってそういう感じなんですよ。 
破門されて、一緒に逃げた女の子と一緒に旅館とかを回って芸やるみたいな。 

平野

へー、そうなんだ。 ドサをやってるのね。 
待って、『国宝』見ました?

(伊藤さん、編集部2名、フォトグラファーうなずく)

え、4対1ってこと? 

伊藤

見ずにいられたのがすごいですよね。 
え、それは、見ないという決意? 

平野

そう思うでしょ?それがね、意外に違うんですよ。 

伊藤

え、それはおかしいです。そんな心構えでこの激流の中を泳いでいける? 

平野

見ないっていうよりも見られなかったんだけど、世の中が熱狂してると、なんかちょっと疲れちゃって。
ものすごい行列の店の前をちらっと通ってすぐ諦めるに近い感じっていうか。 なんかみんなが夢中だな、じゃあ大丈夫ですって。 

伊藤

熱狂が怖いんですね。 

平野

そう、僕は基本的に熱狂が怖い。
「みんなが見てるものは大したことない」とかじゃないんですよ。 すごく面白いからみんな見てるってことも多いだろうし、その時代を映しているから見る価値が高いとかってことも大いにあると思うんで。
「見ないぞ」と思ったわけでもなければ、「見なくてよかった」とも思ってないんだけど。ただなんせみんなの勢いがすごいから、ちょっと一旦大丈夫ですってなってるうちに、「あ、終わったな」みたいな。 

伊藤

いつの間にか終わってるんですね。 

平野

そう、そういうことがね、非常に多い人生です。
だから「スター・ウォーズ」も見たことがないんですけど。 

編集部

あ、そうなんですか。 

平野

そう、「スター・ウォーズ」もないんだけど、なんか順番とかあるんでしょ? 

編集部

4から見ていただいて。 

平野

もうほら、すぐ答えが来るじゃん。 

伊藤

「4から見る」って何?わからない。 

編集部

最初が4なんです。 

平野

後から戻るみたいな作りなんでしょ? 

そうだ、今すごく見たいんですよ、『ちいかわ』が。 

伊藤

ちいかわ。 私まだ踏ん張ってるから。ちいかわの激流の中で。
大体そうなんですよ。一ヶ月ぐらい踏ん張るんですよ、私。 

平野

え、それはどういう踏ん張りなの? 

伊藤

「そんな軟弱なもの、けしからん!」という踏ん張りです。

編集部

え、ちいかわ自体はお好きじゃない? 

伊藤

全然。一回も見たことない。

平野

パリで物書きをやってる後輩が、思想史が専門の非常に硬派で信頼している人なんですけど、ちいかわが好きなんですよ。グッズとかも置いてるくらい好きだから、ちいかわには何かあるに違いないって思ってて。
だから見たいって思ってるんだけど、なんかちょっと見に行く前に疲れちゃって。 こっちの状態も大事だからさ。 

伊藤

こっちのコンディションありますよね。 

平野

そう、行けるコンディションになったら行こうって思ってるうちに終わる。
なんかあれ怖いんでしょ?ちいかわって。嫌な気分になるって聞いたんだけど。 

編集部

ちょっと倫理観を問われる感じですね。

伊藤

なんでそんな嫌な気分になる映画ばかりが流行ってるんだ。 

平野

まあそうか、嫌な気分になるか、推し活か(の二択)みたいな。 

伊藤

そう、どちらか。結末が斜め上、みたいな娯楽が多い気がする。

平野

『国宝』はでも意外と、なんていうか、標準化された感じ? 

伊藤

王道な。

平野

ですよね。 だからあんなに多くの人に見られた。 

伊藤

私歌舞伎町のTOHOシネマズで見ました。
絶対に興味がないだろう、っていうようなギャルとホストのカップルが「泣いた」とか言ってて、マジか、と思って。 

平野

それがメガヒット作というものですよ。 

人間の匂いがするAIメール

平野

最近仕事のやりとりで、「なんだそりゃ」っていうことがあって。
待遇に関して想定が全然違っていたんです。でもこれは相手が悪いとかじゃなくて、初めて仕事をする相手だったので、お互いが条件を共有してなくて、こっちは当然こうだろうって思ってたことが、向こうは違ったんですけど。 

伊藤

たまにありますね。 

平野

あるでしょ?「どっから説明しよう、これ」ってなって、ちょっと具合悪くなっちゃって。それで条件を箇条書きにして、AIにメールを書いてもらったの。
僕のすごく信頼してる歌人にも「私、仕事のメール大体AIですよ」っていう人とかはいて、いいも悪いも思ってなかったんですよ。むしろそうやって温存しておいた分の力で創作するのかなぐらいに思ってたけど、自分はやろうと思ったことはなかった。

それでAI使って書いてもらったら、やっぱり非常によく整理されてるんですよ。
でも「しかし俺がどこにもいないな」と思って。
情報はよく整理されてるから、この情報のラインを残してちょっと書き直してみよう、とかした結果何時間もかかって、「これ何の時間?」って。 やってみてよかったけどね、思考実験というか。 

やっぱり不自然になっていくよね。 部分的に人間臭くなるというか。 

伊藤

そう、混ぜて使うともう自分が書いたところは人間の匂いが隠しきれないんですよね。すごい匂いを放ってる、この(人間が書いた)一文だけが、みたいな。 
私のマネージャーのメールも、100%AIなんですよ。
結構無機質な感じだから、やり取りの時に不安になるかなと思って、 私がスタンプを付けたり、「よろしくお願いします」って付け足したりとかしてます。
AIが機械の声で喋って、肩に乗ってるちっちゃい私が「おねがいします!」って言ってるみたいな。 そういうイメージですね。