学びを「他人軸」から「自分軸」へ
英語の山をのぼる、とげまるの軌跡とこれから(2/2)

慢心と「戦略的遠回り」
——本の中で印象的だったのが、とげまるさんが英検1級の二次試験を初めて受けたときに、「慢心でろくに準備しなかった」と書かれていたことなんです。これほどストイックな勉強を重ねていて、準備を怠らないイメージのあるとげまるさんがなぜここで「慢心」して準備しなかったのか、すごく不思議だったんですが。
いや、これはもう完全に自分が間抜けなんですけど・・・、実は英検の2級も準1級も、二次試験は「NO対策」で行っていたんですよ。それでも結構余裕で受かっていたので、「1級もこのノリでいけるやろ」って思って行ったら、もう全然違ったっていう(笑)。
——とげまるさんの性格なら「まさか手ぶらでいかないだろう」って思っていたんですけど、なぜそこで「いけるだろ」って思ったのかと。
英検二次試験(面接)の合格率って、当時公表されていたデータによると、例えば2級の面接の合格率は9割を超えているんですよ。準1級の面接の合格率も8割後半ぐらいだったので、よほどヘマをしない限りは落ちないだろうと思っていました。
——なるほど。ただの慢心というより、データをしっかり参照した結果「やらないでいいだろう」という判断になったということですね。
はい。僕は結構データを見るんです。例えばTOEICなら直近の平均点とかは絶対に見て分析してから行くので。言ってみれば「データを見ての慢心」ですかね(笑)。
——それとこの本で面白いなと思ったのが「戦略的遠回り」というものなんですが、これは読者の皆さんにも参考になるかなと思うので、ご説明いただけますか?
はい、TOEIC 900点超えを目指して勉強していた時のことなんですが、ある時850点ぐらいで頭打ちになったんですね。 勉強法としては当時、模試をメインにたくさん解いていたんですけど、スコアがびくともしなくて。
で、自分なりに分析した結果、TOEICの英語はわかるんだけど、ニュース記事のようなレベルの高い英語にまったく太刀打ちができていないということに気付きました。これを克服することがスコアの突破口になると考えて、一旦TOEICは置いておいて、英検1級を取ることを目指しました。
英検1級って、TOEICでは出てこない単語が出ますし、長文もTOEICより難解なので、それに普段から慣れておくとTOEICの文章がとても「直線的」に見えてくるんです。その感覚を味わった状態でTOEICを受けたら900点を突破することができました。
——目標をクリアするために、さらにそれよりも難しいものに触れてから、戻ってくる。これが「戦略的遠回り」なんですね。
はい。TOEIC満点を目指していた時も同様に980点ぐらいで頭打ちになった。だからより難しい国連英検特A級を目指しました。
——すごい。
国連英検特A級って、過去問だけだとどうにもならなくて、英語の新聞や雑誌を読まないと取れないんですよ。そうやってTOEICより常にレベルの高い英語に触れていたので、実際にTOEICを受けた時に満点を取れたんですね。
このような経験から、自分の英語レベルを上げたいのであれば、「現状のレベルより少し上のマテリアル」に触れるっていうのを意識した方がいいんじゃないかなと思います。最初は苦戦するかもしれないですが、徐々にわかってきます。

英語を学んだ先にあるもの
——現在ほぼ「山頂」にいるとげまるさんですが、それでもまだ「上」ってあるものなんでしょうか? 今でも英語でわからないことってありますか?
たくさんありますよ。この間友人が読んでいた古典の洋書を見せてもらったら全然わからなくて。
——そういうものは、やはりわかるようになりたいですか?
やっぱり、負けず嫌いなんで。興味がなくても、「これを知らないのは嫌だな」っていうのはあります。だから難しいマテリアルを読んで、知らない表現や文法をその都度調べています。「エコノミスト」を初めて読んだ時、一つの記事を読むのに3時間かかりました。外交系の背景知識も必要なので、自分でWikipediaで調べて補って。そうこうしているうちに「あ、こういうつながりになってるんだ」っていうのが見えてくるんですよ。
——本や記事をたくさん読んでいると、英語を学ぶと同時に「知識が拡張していく」メリットもあると思いますが、そんな状態を生かせる瞬間ってどんなときでしょうか。
予備校で英語を教えているので、高校生の大学受験指導で役立っていますね。最近の入試英文は難しく、英字新聞や雑誌から原文を抜粋したものもあります。自分が普段から読んで背景知識を身につけていると、難しい英文を解説しやすく、関連する話もできるので授業が楽しくなります。
仮にもし自分が「エコノミスト」などに触れずに、英語だけ勉強していたら、「英語を使って何かを考える」機会が失われていたと思うんですね。新聞や雑誌を読むと、世の中のことを知って、それに対して自分はこう思う、ということが英語でできるようになります。これは大きな利点だと思います。
——この本に書かれていることは、学習者にとって非常に参考になると思いますし、「上を目指したい」という人たちの心に、必ず火を灯してくれると思います。一方で、少し失礼かもしれませんが、とげまるさんが英語に注ぎ込んでいる情熱や費やしている時間を知って、「とげまるさんみたいにはできない・・・」と思う人もいるかもしれません。英語学習に割くリソースについて、何か思うところやアドバイスはありますでしょうか?
僕の場合は英語の勉強をしてること自体が、英語講師という仕事に直結しているので、学習時間は必然的に増えるというのはあります。ただ、それぞれお仕事、プライベート、ご家庭の事情などいろいろあると思うので、コツコツ各々のペースで積み上げていけばいいんじゃないかなと思います。ただ、これは生徒にも常に言っているんですけど、「毎日やること」が大事だと思います。時間は正直30分、1時間でもいいから「毎日やる」。それはめちゃくちゃすごいことだから、習慣化しましょう、って言ってます。
——ありがとうございます。ちょっと安心しました(笑)。ところで今「タイパ・コスパ」の時代で、AIツールがあって、という状況で、英語学習においてもそれは例外ではないですよね。テクノロジーの発展で「同時通訳」ぐらいの勢いで訳が出てきてしまう。そんな時代で、英語を学習する意義はどんなところにあると思いますか?
僕も勤め先でAIを使った英文添削ツールなどを開発して使っていて、精度も高く助かっていますが、うーん、難しいですね。 ちょっと哲学的な話になってくるんですけど、言語って結局「会話」ありきじゃないですか。
最近だと外国人に道案内できるアプリとかもあって、確かに便利ではあるんですけど、じゃあそれで「人間関係」を築けるかというと、そうじゃないと思うんですよ。 外国の人と仲良くなりたい、文化や伝統を知りたい、言語を学ぶ意義って、そこにあるんじゃないかなと思っていて。
本にも書いたんですけど、言語って「人と人とをつなぐ橋」だと思ってるんですよ。「AIがあるからいいや」だと、多分、寂しい社会、誰も会話をしない社会になっちゃう。そうならないためにも、言語を学ぶんだと思います。
——アプリやAIも駆使されていると思うのですが、とげまるさんはやっぱり「本」派ですよね?
本に関しては結構こだわりがあって。本当に自分がいいと思った本しか買いません。だから、Xで流れてくる皆さんのおすすめの参考書はほとんど買ってないんです。申し訳ないんですけど。
——どうやって本を吟味するんですか?
もう、本屋に行って立ち読みして。2時間ぐらいかかるときもあります。
——2時間立ち読みして「今日はやめとこう」みたいな。
あー、ありますあります。全然あります(笑)。
——とげまるさんの基準をクリアした本たちを知りたいです。
最近お気に入りなのは『大学入試 飛躍のフレーズ IDIOMATIC 300』(アルク)ですね。あれは衝撃でした。大学入試向けに書かれた学習参考書ではあるんですけど、完全にそのレベルを超えてます。自分が日常的に見聞きする表現がたくさん載っています。あと『キクフレ』(アルク)もいいですね。TOEICの授業でも使ってるんですけど、TOEIC以外にも使えます。IELTS、英検ライティングにも使えると思います。
他人軸から自分軸へ
——とげまるさんはケンブリッジ英検に挑戦するも、一度は不合格になり、その時にマインドの転換があった、ということが本にも書かれていますね。学習を「他人軸」から「自分軸」へ移したとのことですが、そのことを詳しくお伺いできますか?
実は今の僕のXのアカウントって「やり直し」のアカウントなんですよ。前のアカウントはフォロワーが2万6000人ぐらいいたんですが、今振り返ってみて痛感するのが、その時は「他人からどう見られているか」ばかりを気にしてたんですね。
フォロワーが2万人にもなると、いろんなところから声も掛かってきますし、いろんな投稿をするとすぐリアクションがもらえて、それに気持ちよくなっていた自分がいたと思うんですよ。
それに気づいたタイミングが、ケンブリッジ英検に落ちてしまった時です。長い付き合いの学習仲間から落ち込んでいる僕に連絡があって、新宿の居酒屋で飲みながら話しました。そして「とげまるさんの発信って、いい意味でも悪い意味でも、自分のためじゃなくて他人のためだよね」と言われたんですよ。
その「いい意味」っていうのは、「誰かの役に立ちたい」っていうこと。「悪い意味」っていうのは、どこかで「目立ちたい」っていう気持ちがあるんじゃないかっていうこと。そんなことを言われました。
——厳しいですね。
でも言われた時に「確かにそうだな」って思ったんです。これは直さないと取り返しのつかないことになるなって。そこから少しずつ「自分のため」にやることを意識しています。発信する情報に関しては誰かの役に立つようにしたい。 でも、試験とか自分の目標に関しては自分のために頑張るっていう、そこに軸を少しずつ戻していって。それが後のケンブリッジ英検合格につながったと思っています。
——なるほど。英語学習を続ける中で、うまくいかないことも多いと思うのですが、そんな時、モチベーションを維持するために何かされていますか?
自分が立てた目標を紙に書き出すようにしてます。20代の頃、周囲がプライベートを楽しむ中で、「とげまるは勉強ばかりしている」と言われ、気持ちが揺らぐこともありました。その時は自分は何のために目標を立てているのかに立ち返っていました。 極端ですけど、例えば「国連英検特A級を取ったら、いろんなところから声がかかって、年収が上がって、YouTubeに出て・・・」とか。妄想ですよ? 今考えたらちょっと変だと思うんですけど、そんなワクワクする妄想を書き出しておくと、自ずとテンションが上がって「その未来のためにもっと頑張っていこう」という気持ちになれました。
——本にも「自分はなぜ英語を学ぶのか」がしっかり刻み込まれていると思いますが、今のとげまるさんにとって、この「なぜ」を言語化するとどうなりますか?
まず一つは純粋に「英語が好き」だからです。英語を学ぶといろんな世界のことを知ることができますし、いろんな人とつながることもできます。英語を通して知り合った人たちにはフルタイムの会社員だけでなく、フリーランスでバリバリ活躍する人たちもいます。多様な生き方があることを知って、ちょっとしたカルチャーショックでした。今はそんな生き方もいいなって思っています。
もう一つは、自分が英語を教えているので、「生徒に常に学ぶ姿勢を見せるため」でもあります。努力してない人が「学べ」って言っても生徒には何も響かないんですよ。 英検のことについて聞かれて詳しく答えられないと、「あ、この先生勉強してないんだ」って話を聞かなくなるんですよ。自分は英検をはじめ、いろんな試験を受けてその試験の良し悪しをある程度は知ってるつもりなので、相談を受けたら何でも答えられます。英語を学んでいるのは「生徒との信頼関係を構築する」ためでもあるんです。
最近、ある生徒に「和田先生が勉強している姿を見ると、自分も勉強したくなる」って言われたんです。 本当の意味で信頼される教師になって、そんな生徒をもっと増やせるようになりたいです。

——素敵なお話ですね。私の周りにもとげまるさんからモチベーションをもらっている人がたくさんいますし、これからもそんな存在でいていただきたいなと思います。最後にこのメディアを見ている英語学習者の皆さんに一言いただけますか?
お伝えしたいことは、「才能は関係ない」ってことですね。僕自身、もともとめっちゃ頭がいいわけでもないですし、不器用ですし。 英語以外ほんとダメダメ人間なんで。結局、自分の目標に向けてコツコツやっていくことが一番です。
あと、XとかInstagramとかには「TOEIC満点!」とか「900点超え!」という人がたくさんいて、その人たちと比べて落ち込むこともたくさんあると思うんですけど、学びのペースって人それぞれなので、自分のペースで一歩ずつ、「山」とは言わずとも「階段をのぼる」感覚で歩んでいけば、必ずいい結果につながっていくと思います。誰かと比較するんじゃなくて、「自分の軸」を保った上で英語学習に勤しむといい結果につながっていくんじゃないのかなって思います。
——「比較せず、階段を一歩ずつ」ですね。今日はありがとうございました!
とげまる(和田啓)
塾講師の傍ら、「とげまる」の名前で英語学習法を発信。 TOEIC 990点。ケンブリッジ英検CPE (全技能CEFR C2 合格)、 国連英検特A級、英検1級(9回合格、上位1%の合格者に与えられる英検奨励賞も受賞)などの資格を有する。著書に『英語の山をのぼる ~ゼロから世界基準の頂を目指す、10年間の軌跡と学習メソッド~』(アルク)がある。
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