学びを「他人軸」から「自分軸」へ
英語の山をのぼる、とげまるの軌跡とこれから(1/2)

英語学習を続けていると、「本当に自分は英語を身につけられるのだろうか」と不安になる瞬間があります。そんな学習者に、努力が実を結ぶことを自身の歩みで示してくれるのが、『英語の山をのぼる』(アルク)の著者・とげまるさんです。
大学時代に経験したある出来事をきっかけにTOEIC学習を始め、英検1級、国連英検特A級、IELTS 7.5、ケンブリッジ英検C2 Proficiency(旧称CPE)という難関資格を次々と取得。その成功の裏には単なる「試験対策」だけではなく、静かなる情熱と、失敗を通じて獲得した「自分軸」がありました。今回のPOLYGLOTS magazineインタビューでは、書籍誕生の経緯から、「戦略的遠回り」などの独自の学習法、SNSとの向き合い方、そして「AI時代に英語を学ぶ意味」まで、とげまるさんが歩んできた「軌跡」と「頂から見える景色」についてたっぷり伺いました。
書籍執筆の経緯
——ご自身の英語学習の歩みを日々発信していらっしゃるとげまるさんが、初のご著書『英語の山をのぼる』(アルク)を出版されたということで、本日はこちらをメインにお話を聞いていきたいと思っています。まず、本書を出されることになった経緯を簡単に教えていただけますか?
一昨年(2024年)の9月か10月あたりに、編集者の方からXのDMでご連絡をいただきました。最初はインタビューの企画でした。僕自身、そのタイミングで自分が20代のうちに取りたいと思っていた資格を全部クリアしていたので、ちょうど良いタイミングだと思い、インタビューをお受けしました。その延長線上で、「本を出してみないか?」というお声をかけていただいたんです。
——本日は本書の編集担当であるアルクの鮒さんにもご同席いただいているのですが、鮒さんはとげまるさんのどんなところに注目されたのでしょうか?
(アルク編集者 鮒さん)はい。当時(2024年周辺)って「AI時代に英語を学ぶ意義とは」という問いが盛んに行われていた時期で、私たちのような英語学習を専門とする出版社としても、自分たちの存在意義を問い直すつもりで、英語の先生や識者の皆さんがどのように英語学習に向き合っているのかをお聞きするインタビューリレーを敢行していたんです。そんな中、Xでとんでもない熱量で学習をされているとげまるさんの存在を知り、インタビューをさせていただくことになりました。
お話を聞く前は、正直「この人は何のためにここまで学習しているんだろう?」と思っていました。実際にお話を聞いて感じたのは、とげまるさんはただ山をのぼるかのように、「そこに英語がある」から淡々と学びを積み重ね続けていらっしゃっていて、それがとげまるさん自身の「人生の支え」になっている、ということでした。「何のために」とかではなく、とげまるさんにとって、学び続けることは「生きること」そのものなんだなと。そこで後に『英語の山をのぼる』というタイトルと合わせて、とげまるさんに書籍化を打診しました。
——ありがとうございます。この本にはTOEIC満点、英検1級、国連英検特A級、IELTS7.5、ケンブリッジ英検C2 Proficiency(旧称CPE)という難攻不落の「山」を踏破されたとげまるさんの十年間の英語学習の軌跡が刻み込まれていますね。とげまるさんにとって初の書籍ということで、執筆に苦労された点などありましたか?
(とげまる)文章を書くこと自体はもともと好きで、Xやnoteにもよく投稿しています。ただ、これまではあくまでも自分の体験を綴るだけというか、自分の中で完結してしまう感覚がありました。それが「本」となると、「読んでくださる方にどう届けるか」という視点が不可欠になりますよね。そこが一番のハードルでした。
最初に書いた原稿は、鮒さんから「大学のレジュメみたい」というフィードバックをいただいて(笑)。 もうそこからいろんな本、例えばHaru*さんの『TOEIC(R) L&R TEST ロジカル勉強地図』や濵﨑潤之輔*先生の学習本などを読んで、「どこまで落とし込んで書くか」を自分なりに分析して書き始めていったという感じですね。
*Haru English・・・米テック系企業勤務の英語学習YouTuber、インフルエンサー。
*濵﨑潤之輔・・・大学・企業研修英語講師、書籍編集者。
——最初は「大学のレジュメ」のようだったとのことですが、実際の仕上がりは、とげまるさんのヒストリーや感情の動きなどがバランスよく織り込まれていて、いわゆる「英語学習法本」とは一味違うものになっていますね。TOEICのスコアに伸び悩んだ時に実践した「戦略的遠回り」といったワーディングや、国連英検の事業停止を「こんなにも険しくも美しい山があった」と表現するなど、時折キャッチーでポエティックな表現が飛び出すのも印象的でした。
ちょっと話が逸れるんですけど、僕、バンドの「スピッツ」が大好きなんですよ。
——「とげまる」*さんですもんね。
そうです。ペンネームをスピッツのアルバムタイトルから取ってるぐらいなんで。大好きなスピッツの歌詞を引っ張り出して、それをモデルにして自分なりの解釈を加えて書いたところとかもあったりします。
*『とげまる』 ・・・日本のロックバンド、スピッツの13作目のアルバム。

とげまるさん初の著書。10年の英語学習の軌跡が刻まれている。定価 1,980円(税込)アルク
「昆虫博士」が英語にのめりこむ
——「とげまるさんと英語」を時系列的に伺いたいのですが、幼少期は「昆虫博士」だったというとげまるさんが、英語を「これはちょっと面白そうだぞ」と思ったのはいつごろでしょうか。
もとから英語自体に苦手意識そのものはなかったんですが、大きな転機は、高校2年生の学年末に英語のテストで学年1位を取ったことです。 その成功体験が大きくて、「自分には英語のセンスがあるのかもしれない」と思いました。 そこから大学では英語を頑張ってみようと英文科に進みました。
——なるほど。ちなみに昆虫の方はどうなったんでしょうか?
昆虫はですね・・・僕、数学と化学が嫌いで。理系に行かないと生物学者になれない、と途中でわかってしまって。高校1年の時に「文系に行く」と決めたので、その時点で昆虫博士の夢は諦めた形になります。
——そうなんですね。高校での「英語との出会い」を経て、今のように英語に打ち込むようになったきっかけを教えてください。
福岡の男子校から東京の大学の英文科に入るというのは、異国の地に放り込まれるような経験で、大学では周囲にうまく馴染めなかったんです。もともとすごく人見知りで引っ込み思案な性格にコンプレックスを持っていたので、人前で何かをする度胸を身につけたくてミュージカルサークルに入ったんです。ただ、そのサークルでいろいろうまくいかないことがあって。大学1年生の秋からもう大学に行けない状態になって、半年ぐらい引きこもっていました。2年生に上がるタイミングで成績不振の通知が実家に届き、自分が大学に行っていないということが親の知るところとなり、「これはどうにかした方がいいんじゃないか」と。
そのタイミングで、大学にキャンパスソーシャルワーカー、いわゆる心理カウンセラーの先生が常勤するようになったんです。今考えたら本当にラッキーだなと思うんですけど、その先生の励ましのおかげで、大学やサークルに復帰することができました。
——この本にも書かれていますけど、その先生から「TOEICを受けてみたら?」と言われたんですよね。
はい。当時その先生が担当されていた他の生徒さんの英語の課題を手伝う機会があったんです。簡単な英文和訳だったんですけど、その訳を先生が見て、「英語のセンスがあるからTOEICを受けてみたら?」と。今考えると多分僕を鼓舞するためにおっしゃってくださったんだと思います。
最初は気が進みませんでしたが、当時就活も近づいていたので、「騙されたと思ってやってみるか」ということで、大学の生協に立ち寄ったところから自分の英語学習が始まりました。
——その先生がおっしゃった「英語のセンス」とは、何だったと思いますか?
具体的に「何が」とは言われてないんです。ただ「センスあるよ」って。推測すると和訳する際の言葉選びだとか、「意訳」の適切さとかかな、と思っています。
——「センスあるよ」の一言が、こんなに良い方向に人生を変えてしまう。その先生はとげまるさんにとって本当に大事な方なんですね。
はい。「人生の恩人」と言っても過言ではない存在です。
山をのぼる理由
——とげまるさんが踏破した、つまり満点取得や合格を成し遂げたTOEIC、英検1級、国連英検特A級、ケンブリッジ英検C2 Proficiency(旧称CPE)はそれぞれどんな試験なのか、あらためて、それぞれの特徴を説明していただけますか。
TOEICは皆さんご存じの通りです。ビジネス英語を中心に、日常の場面も広く扱う試験です。最近はAIなど、より現代的なテーマが出されるようになっています。就職に役に立つ試験ですね。
英検1級はアカデミックな英語が中心で、ライティングやスピーキングでは社会的なテーマが多く扱われます。「民主主義を他の国に広めるべきか」とか、 「グローバリゼーションは社会にとって良いことか」というようなことを問われます。難しい語彙も多いですが、新聞や雑誌を読む基礎力を身につけるのに役立つ試験です。
国連英検は2026年1月に事業停止が発表されました。「国連」という名の通り、国際問題や国連の役割について、論理的に説明する力が求められます。特に面接でそこを厳しく問われます。元国連大使の方が試験官だったので、ごまかしがきかない試験でした。
ケンブリッジ英検C2 Proficiency(旧称CPE)は、ケンブリッジ大学が主催している1913年に始まった古い試験です。ネイティブに近い高度な英語運用力が問われます。ライティングではエッセーに加え、記事やレポートなど複数形式の文章を書き分ける必要があります。今あげた「山」の中で圧倒的に難しかったのがケンブリッジ英検です。

——とげまるさんが「山」をのぼり続けるモチベーションは何だったのでしょうか。
こう見えて、すごく負けず嫌いなんです。そもそも国連英検とかケンブリッジ英検って、英語学習を始めるまで知らなかったんです。英検1級がこの世の中で一番難しい資格試験だと思い込んでいました。
僕が英語の勉強を始めたばかりの大学3年生の時に、たまたま YouTubeで「もりてつ」*さんの授業動画が流れてきて、日本人でこんなに綺麗に英語を発音する先生がいるんだって、すごい衝撃を受けて。彼の経歴を見てみたら、「国連英検特A級」と「ケンブリッジ英検C2 Proficiency」があって、それは英検1級よりもはるかに難しいと知りました。そこで自分は「もりてつさんのようになりたい」って思ったんですよ。自分が二十代のうちに国連英検特A級とケンブリッジ英検を取って、人生を変えてやろうと。
そしてこの10年間で、著名な英語講師やインフルエンサーの方々にたくさん出会っていく中で、自分もこういう人たちに近づけるようにもっと頑張らなきゃ、と。そういう気持ちが勉強を続ける糧になりました。
それと、これは今はもう薄れていますが、最初の2、3年はどうしても「学生の頃自分に嫌な思いをさせた奴らを見返してやりたい」という気持ちが強かったんですよ。それは原動力の一つにはなっていたと思います。
——ずばり、実際に10年間英語に打ち込んできて、人生は変わりましたか?
大きく変わったと思います。英語を通じた様々な「出会い」はとても大きいです。10年前の自分からしたら想像もしていなかったことが起きているなと。何と言うか「生きる糧」を見つけることができて、毎日が楽しいって心の底から言えます。
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