Z世代の言葉革命
ソーシャルメディア時代の語源学入門

The Etymology NerdがZ世代に説く「言葉の重要性」
近年、若者は言語学(言語の研究)や語源学(言葉の起源と変化の研究)の分野に、より関心や注意を向けるようになってきています。その一因は、「The Etymology Nerd」(日本語で「語源オタク」の意味)のようなソーシャルメディア・クリエイターの台頭です。
彼は本名をアダム・アレクシックといい、ただのクリエイターではありません。彼はハーバード大学を卒業し、「ワシントン・ポスト」に記事を発表し、ソーシャルメディアにおける語源学についてのTEDトークも行っています。これだけの実績がありながら、彼はSNS上で300万人以上に向けて動画を発信するクリエイターとしての姿が最も知られています。彼は、若者の生活に深く組み込まれたソーシャルメディアという独自の場によって、若者の言葉がいかに変化しているかを強調しています。
彼は、スラングや言葉の変化が今や急速かつ世界的に広がっているため、語源学がこれまでになく重要になっていると示しています。かつて何年もかかっていた変化が、今では一夜のうちに起こるのです。
ソーシャルメディアが変える「若者の言葉」
アダム・アレクシックはよく、グループが「内情を知っている人々(=身内)」であることを示し、アイデンティティを形成するために独特の話し方を使うことについて語ります。Z世代がスラングを生み出し、使用すると、年上の世代はそれについていけず、そのことが彼らの集団的なアイデンティティを強めるのです。これが、ソーシャルメディア以前には見られなかった急速な言語の革新を促しています。
アレクシックは「ワシントン・ポスト」でこれについて書き、ドクロの絵文字が年上世代には死を意味するかもしれないのに対し、Z世代では何かが面白かったり皮肉であることを意味すると指摘しました。また、スラングはプラットフォームの規制によって形作られることもあります。たとえば、TikTokは「kill」(殺す)という言葉を禁止したため、人々は代わりに「unalive」(死なせる)を使い始めました。それが非常に人気となり、多くの人がその由来を知らないまま現実世界でも口にするようになりました。
ソーシャルメディアのスラングは世界規模の話し言葉にも入り込んでおり、「rizz」(恋愛的なカリスマ)「based」(飾らない/率直な)「vibe」(雰囲気、気分)といった言葉は、英語を母語としない人々の間でも、世界中で使われています。
語源学が教える、SNS時代の言葉の危険性
アレクシックはしばしば、ソーシャルメディアを通じて言語が進化することのリスクについて警告しています。問題の1つは、コンテンツがアルゴリズムによって供給されていることです。若者が、見せられたものに基づいて言葉を身につけるのであれば、企業はそれをマーケティングに利用することができます。
もう一つの懸念は、スラングの出所です。もしスラングが秘密の暗号のように働くなら、それを作るグループはしばしば秘密裏に活動しています。有害な例は「インセル」(involuntary celibatesの略。意味は「不本意の禁欲主義者」)のスラングです。インセルは女性嫌悪的なコミュニティで、暴力的な攻撃に関連しています。それにもかかわらず、「-pilled」(特定の思想や価値観に深くはまり込むこと。しばしばネガティブな意味)のようなスラングは、その起源を知らないままZ世代に広まっています。
このことは、周縁化されたグループにも起こります。Z世代の多くの言葉、例えば「slay」(とてもうまくやる)「queen」(現在では性別を問わない親愛の呼びかけ)「cooked」(困っている、または“もう終わり”の状態)は、ゲイや黒人コミュニティから来ているものです。これらの言葉は安全な空間を作るためのものでしたが、大衆化されてしまうとその意味は薄められたり誤解されたりすることが多くなります。
アレクシックは、著書『Algospeak』でこれらすべてを探求し、言葉が拡散しているまさにその場所であるSNSを使って、最もその影響を受ける若者たちに向けて語源の教育を続けています。
言葉がこれまで以上に早く変化している時代に、その出所を知ることは役に立つのです。
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