「透明になりたかった」少女が、言葉と表現で作った居場所 三浦アークインタビュー(2/2)

進行・構成:POLYGLOTS magazine編集部 写真:Coco Taniya
三浦さんご自身も、そうしたつながりに気づかされたり、救われたと感じた経験はありますか。
とてもありますね。あるサイコセラピストの方から教えてもらった言葉に、「Identity-based trauma(アイデンティティに基づくトラウマ)」というものがあります。たとえば、マイクロアグレッションに遭ったときに負う精神的な傷や、PTSDの症状のことを指します。
私は中学時代にうつを経験して、メンタルヘルスについて学んでいたのですが、その頃はまだその言葉に出会っていませんでした。そのため、当時はすべて自分のせいだとか、自分がセンシティブだから、と物差しを自分に向けてしまっていたんです。
でも、「toi-toi」の出演者の中に吃音のある方がいて、そのことを理由に学校でいじめに遭ったり、普通の飲食店でアルバイトをさせてもらえなかったりしたという話を聞いたことで、「Identity-based trauma」は確かに存在するんだ、と実感することができました。自分だけの仮説ではなく、確かにある問題なんだと。
もう一つ大きかったのは、自分らしく生きることの大切さを、改めて確認できたことです。マイノリティの立場にいると、自分の置かれている状況をどう乗り越えていくかを、自分で考えざるを得ないんです。それに苦しくなることもありますが、それでも自分を貫いてきたからこそ、「toi-toi」の皆さんのような素敵な人たちに出会えたのだと思います。
そう考えたら、これからも引き続き、自分らしく生きていこうと思えるようになりました。

ご自身を救うために始めた音楽や居場所づくりの活動が、少しずつ社会との接点を持ち、結果的にまたご自身を支えるものにもなっているのですね。
これからも発信を続けていかれると思いますが、今後はどのような軸を大切にし、どんな人たちに向けて届けていきたいと考えていますか。
これまでは、「何かを訴える」というよりも、「自分を守るために戦う」という選択をしてきた感覚がありました。ただ、ずっと戦い続けるのは、やっぱり疲れてしまうんですよね。これからは、「toi-toi」で出会った人たちと一緒に表現をしたり、ミックスルーツに限らず、all walks of life (生まれや育ち、立場の異なるさまざまな人たち)の人たちと表現を共有したりしながら、もっとワイワイとした形で活動していきたいと思っています。
また、「toi-toi」を通して、自分が経験してこなかった辛さを経験してきた方たちと出会い、自分とは異なるアイデンティティを持つ人たちについて学びたいという気持ちも強くなりました。仲間たちから学び、教わったことを軸にしながら、子どもたちのためのコミュニティや居場所づくりにも取り組んでいきたいと考えています。
いつか自分に子どもができたとき、その子がどんな属性を持っていたとしても、しっかり伴走できるような知識や経験を持っていたいですね。
言語を越えて相手と向き合い、語り継ぐ
当メディア「ポリマグ」は英語学習者がメインの読者層ということもあり、何かを伝える時の「言語」の話を少ししたいのですが、三浦さんはトリリンガルなんですよね。
はい。母語は日本語で、第二言語が英語です。インターナショナルスクールと高校時代は、フランス語も学びました。
三浦さんが制作された楽曲は、英語詞がほとんどですよね。ご自身の内面を表現する際には、英語のほうがしっくりくると感じていますか。
確かに、歌はほとんど英語ですね。自分の心の中を表現しようとすると、英語のほうが語彙が多いのかもしれません。ただ、私は9歳の頃から「5年間日記」を続けていて、今は3冊目に入っているのですが、それはずっと日本語で書いていますね。
使う言語によって、ご自身の考え方が変わると感じることはありますか。
それはあると思いますね。たとえば、日本の教育システムを批判的に考えるときは、英語のほうが入りやすいというか、社会的なトピックになると、英語のほうが情熱的になりやすいんです。だから、より自由に考えられるのかもしれません。もちろん日本語でも表現できますが、日本語を話すときは、日本の文化や習慣を前提に言葉を発しているので、出てくる言葉がやはり違ってきます。その違いは、とても面白いところだなと思っています。
それに、言語は言葉そのものだけではなく、ノンバーバルな要素も含むものですよね。異なる背景や文化を持つ人と接するときには、言葉だけでなく、その人の文化的な習慣を学ぶことも大切だと思います。そうすることで、より深く、より自然に仲良くなれるのだと感じています。
冒頭でも少し触れていただきましたが、現在、初の長編映像作品を制作されているそうですね。どのような作品なのか教えていただけますか。
映画『アークによる桂子』は、1967年に出版されたクラーク桂子さん(書籍出版時は小関桂子)という、米兵と日本人の間に生まれた女性による書籍『日本人桂子-とある混血少女の手記-』を読みながら、私自身の過去、アイデンティティ、居場所、そして外見で自分を判断される、いわゆる「見られる」瞬間が多い私生活で、「見つめられる」ということはどういうことなのか、向き合っていく映画です。
日米合同制作とのことですが、どのような経緯でこの作品の制作が始まったのでしょうか。
自分のルーツについて悩んでいた時期(高校生の頃)に、図書館でミックスルーツの方が書いた本を探していて、桂子さんの『日本人桂子』という本に出会いました。その内容にとても感銘を受けて、「いつか桂子さんの映画を作りたい」と思うようになり、それからずっと心の中で温めてきました。桂子さんの文章はイマジネーションがとても豊かで、読んでいると「これは映画になるな」と感じる瞬間が何度もあったんです。映像化する題材として、ぴったりだと思いました。
その後、別のプロジェクトでご一緒していたプロデューサーの方に相談し、本格的に制作がスタートしました。

実際にアメリカまで桂子さんに会いに行って、撮影をされたんですよね。
はい。当初この企画は、最終的に桂子さんにお会いすることをゴールに設定して、私たちが桂子さんの歩んできた人生をたどるドキュメンタリー作品としてスタートしました。でもご縁がつながって、思っていたよりも早く直接お会いすることができて。桂子さんと実際に会って話すことが、そこから作品を通して、私自身を見つめていくための一つのきっかけに変わっていったんです。
当初は桂子さんについての作品になる予定だったものが、桂子さんとの出会いを通して、三浦さんご自身の姿にも焦点が当たるように、テーマが変化していったのですね。
そうです。戦前・戦後を生きたミックスルーツの人たちの存在は、教科書にもほとんど出てきませんし、今でもあまり語られていない、研究者しか知らないような存在です。最初は、そういう人たちのことを知ってほしい、という思いが強くありました。
ただ、撮影を進めていく中で、自然と自分自身の話にもなっていって。世代を越えて、桂子さんや私のようなミックスルーツの人たちは、昔からずっと日本人としてこの国で生活してきたけれど、マジョリティの人たちが経験しないような壁に苦しんできた、ということが伝わればいいなと思うようになりました。
私は今年23歳になるのですが、20代前半というのは、学校や家族から離れ、大人になっていく過程で「自分は誰なのか」を模索する時期だと思っています。私自身も悩みが多い中で撮影を続けていました。そんな中で、桂子さんの文章を読んだり、実際に桂子さんとお会いしたりすることで、私自身が変化していく様子をプロデューサーが感じ取っていて。そのプロセスを作品に落とし込んでいく中で、少しずつ『アークによる桂子』という形になっていった、という感覚ですね。
この作品を通して、三浦さんご自身のように、前向きな変化を感じる視聴者がいたら、とても素敵ですね。
本当にそう思います。この作品では、「生きづらさ」というテーマも大切にしているんです。
桂子さんは19歳のとき、社会からの圧力や差別に苦しみ、自殺未遂を経験されています。でもその後、俳優の森繁久彌さんのラジオ番組に、ご自身の体験を綴った手紙を投稿し、それが番組で紹介されたことで、日本全国からたくさんの温かい手紙が届いたそうなんです。
そのエピソードは、自分自身とも重なる部分があると感じています。学生時代から今まで、苦しみながら戦ってきた自分がいて。でも、ちょうど去年の今頃、初めて「toi-toi」の収録に参加して、all walks of lifeの人たちに出会えたことが、私にとっても救い船のような出来事でした。
だからこそ、どんな人であっても、今とても苦しくて、生きづらさを抱えていたとしても、必ず信頼できる人は現れる、ということを一番伝えたいんです。信じられないかもしれませんが、それでも諦めないでほしいなと思っています。
現在は、作品制作のためのクラウドファンディングにも取り組まれているんですよね。
はい。物語をできるだけ多くの皆さんに届けたいという思いが強くあり、国内外の映画祭への出品費用や、これまでの制作費をカバーするために、クラウドファンディングを行っています。
『アークによる桂子』クラウドファンディングの詳細はこちら
Keiko by Ark(READYFOR)
戦後・令和の日本で生きてきたアフリカ系日本人女性の物語を届けたい!
目標金額を達成した場合のみ、実行者は集まった支援金を受け取ることができます(All-or-Nothing方式)。支援募集は4月4日(土)23:00までです。
『アークによる桂子』ティーザー映像
今回お話を伺って、苦しい経験があっても自分らしくいることを大切にされている三浦さんの姿に、励まされる人はきっと多いと感じました。それぞれが抱えているものは違っていても、自分のあり方に悩んだり、生き方を模索している人たちに、今伝えたいことはありますか。
今は、「自分らしく生きよう」という言葉が、すごくポップに語られる時代になってきたなと思っています。もちろん、そうあるべきだとは思うんですけど、社会の構造はまだそこまで追いついていない。だからこそ、それに悩んでしまうのは、とても自然なことだと思います。私自身も、この日本社会の中でどうやって自分らしくあり続けるか、すごく迷いますし、苦しくなることもあります。
構造的な差別とは、きっと一生向き合っていかなければならない。だから私は、「今感じている違和感を、まずは自分で肯定してあげてほしい」と伝えたいです。
あとは、自分にとって安心できる人たちとのつながりを大切にすることですね。セーフスペースだと感じられる場所に足を運んでみるのも良いと思っています。
最後に、言葉の壁を超えて、自分以外の世界や社会に一歩踏み出そうとしている人たちに向けて、メッセージをいただけますか。
挑戦すること自体は、とても素晴らしいことだと思いますし、言語は他者とつながるための大切なツールの一つだと思っています。でも、それだけではなくて、言語にプラスして、相手の文化や習慣を学ぶことで、もっとその人自身を知ることができるのではないでしょうか。
たとえば、今のデジタル世代は、あまり手紙を書くことがないですよね。でも、近所のおばちゃんと仲良くなって、何かプレゼントを渡すときに、ひと言手紙を添えるだけで、その世代の方にはとても喜ばれたりします。相手が日常的に大切にしているものを知ることで、自然と親近感が生まれるからだと思います。
相手にどんな背景があるのか、どんな人生を生きてきたのかを学び、それを踏まえて行動することで、より深いコミュニケーションが生まれる。言語だけでなく、非言語のコミュニケーションも大切にできたらいいですよね。私自身も、これからもその姿勢を大事にしていきたいと感じています。

三浦アーク:
2003年、東京都出身。高校在学中より、NPO法人アフリカ日本協議会の下で仲間と共に「アフリカンユースミートアップ」を企画・運営し、自身の経験をもとにした短編ドキュメンタリーやショートフィルムを制作。『Ark & Maya: All Mixed Up』(東京ドキュメンタリー映画祭2021特別上映)、『Hair.-小さい頃髪の毛が大っ嫌いだった私へ-』などを発表。高校卒業後も短編映画制作、トークセッション、音楽活動を続け、異文化理解やアイデンティティに関するテーマに取り組んでいる。近年は、戦後日本における「混血児」研究にも関わり、ドキュメンタリー企画や講演活動も行っている。現在、長編デビュー作、『アークによる桂子』に取り組んでいる。NHK『おはよう日本』、『toi-toi』出演、河出書房新社『わたしたちの世界を変える方法 アクティビズム入門』共著など、多方面で活動中。




